本庶佑 医学研究科客員教授、章白浩 同博士課程学生、竹馬俊介 同助教(現、慶應義塾大学講師)らの研究グループは、免疫細胞の攻撃を弱めるPD-1分子が自己免疫疾患を抑制する機構の一端を明らかにしました。
本研究成果は、2016年7月7日に米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」の電子版に掲載されました。
研究者からのコメント
Tリンパ球に発現する抑制レセプターであるPD-1、および制御性T細胞(regulatory T cell:Tレグ)は、どちらも自己免疫疾患の抑制に重要ですが、PD-1とTレグが直接協調するのか、それとも別の次元で活躍するのかについては明らか ではありませんでした。このたび、私たちが新たに見出したマウス自己免疫性膵炎モデルを利用し、PD-1とTレグが、緻密な役割分担によって、自己組織に 対する免疫系の暴走を抑えていることを明らかにしました。
近年注目される、PD-1をターゲットとしたがん治療法では、免疫増強の副作用として自己免疫疾患が問題となります。当研究の成果は、一部の患者で自己免疫疾患が起こる原因の究明に役立つと考えています。
概要
免疫系は、病原体やガン細胞をターゲットとして認識し攻撃、除去することによって、体を守る大切な仕組みですが、免疫系が自己をターゲットとみなし、攻撃してしまうと自己組織を破壊したり、深刻な自己免疫疾患を起こしたりすることがあります。これを避けるために、過剰な免疫活性化を抑制するいくつもの仕組みが備わっています。
その中でも、PD-1分子と呼ばれる、活性化した免疫細胞に発現するレセプターは、ターゲットに対する免疫細胞の攻撃を弱めることが知られています。PD-1分子を欠損したマウスは、自己免疫疾患を自然発症しますが、マウスの遺伝的背景により疾患の重症度、ターゲット組織が異なり、これを規定する第2、第3の因子があることは明白でした。
PD-1と同様に、Tレグは、Forkhead Box P3 (FoxP3)遺伝子を強く発現して、自己反応性の免疫細胞(ここでは「悪玉細胞」と表現)を制御することによって、自己免疫疾患を抑制していると考えられています。
本研究グループは、TレグにPD-1が多く発現することから、Tレグの制御機能や恒常性をPD-1が調節すると考え、TレグにおいてPD-1の発現が直接必要なのか、あるいはPD-1とTレグは別々の抑制機構を発揮するのかを明らかにしようとしました。
その結果、Tレグは、自己反応性の悪玉T細胞の活性化を間接的に抑制すること、一方でPD-1は、悪玉T細胞の分化や組織への攻撃を直接抑制すること、この、両方の役割分担によって、自己組織に対する免疫系の暴走を抑えていることが明らかになりました。(図)また、PD-1の不全だけでは起こらない、致死的な自己免疫反応が、FoxP3の不完全な発現により重篤化することが示されました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1608873113
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/216040
Baihao Zhang, Shunsuke Chikuma, Shohei Hori, Sidonia Fagarasan, and Tasuku Honjo. (2016). Nonoverlapping roles of PD-1 and FoxP3 in maintaining immune tolerance in a novel autoimmune pancreatitis mouse model. PNAS.