ES細胞と遺伝子ネットワークを用いた、高精度の化合物毒性予測システムの構築

ターゲット
公開日

山根順子 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員、藤渕航 同教授らの研究グループは、東京大学、産業技術総合研究所、国立環境研究所、および群馬大学と共同で、ヒトES細胞、遺伝子ネットワークおよび機械学習技術を組み合わせることで、精度の高い、化合物毒性予測の仕組みを構築しました。

この研究成果は2016年5月20日(英国時間)に英国科学誌「Nucleic Acids Research」でオンライン公開されました。

研究者からのコメント

左から藤渕教授、山根研究員

今回発表した、ES細胞を用いた化合物毒性予測システムにより、分子構造式などから予測する従来のシステムよりも高い精度での化合物毒性予測を達成しました。今後は、さらなる精度の向上や他の組織特異的な毒性予測への応用を目指します。また、本技術をさまざまな遺伝背景をもつ人のiPS細胞へ と拡張し、個別化医薬へ貢献したいと考えています。

本研究成果のポイント

  • ES細胞を用いることで、数か月~数年後に現れる化合物の毒性を予測
  • 数理的な遺伝子ネットワーク構築と機械学習を応用することで、化合物の構造により毒性を予測するという従来法と比べ、高い確率で毒性を予測できるシステムを構築

概要

創薬において、化合物の毒性評価は必須ですが、毒性評価を人体で直接研究することは許されておらず、従来、動物モデルでの試験を行ってきました。

しかしながら、動物の体内の作用と人体での作用は異なる場合も少なくなく、動物実験を経て承認された薬物ががんや精神疾患など重篤な作用をもたらすことがあります。そのため、ヒトの細胞や組織を用いた毒性評価系の構築が望まれていました

近年では、iPS細胞のようなヒトの細胞が入手できるようになり、それを特定の細胞種に分化させてから化合物を添加し、その細胞の挙動を見ることで毒性評価を行っていますが、ばらつきのない標準的な、分化した細胞を作る必要があります。

そこで本研究グループはES細胞に化合物を添加し、それによって生じる遺伝子発現量の変化をもとに遺伝子ネットワークを構築、機械学習の技術を組み合わせることで、精度の高い毒性予測のしくみを構築しました。

図:カテゴリー別に、遺伝子ネットワークパターンを類型化したもの

赤い矢印は、ある遺伝子の発現上昇が、下流の遺伝子発現を上昇させるといった正の制御を、青い矢印はある遺伝子の発現上昇が、下流の遺伝子発現を抑制するといった負の制御を示している。

左:神経毒性(9化合物)、 中央:遺伝的発がん性(5化合物)、右:非遺伝的発がん性(6化合物)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1093/nar/gkw450

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/215069

Junko Yamane, Sachiyo Aburatani, Satoshi Imanishi, Hiromi Akanuma, Reiko Nagano, Tsuyoshi Kato, Hideko Sone, Seiichiroh Ohsako, and Wataru Fujibuchi. (2016). Prediction of developmental chemical toxicity based on gene networks of human embryonic stem cells. Nucl. Acids Res.

  • 京都新聞(6月11日 25面)、産経新聞(6月25日 26面)、日本経済新聞(6月11日 38面)に掲載されました。