マイクロ空間を利用して反応時間1万分の3秒の精密化学合成に成功-新規フローマイクロリアクターを用いフラスコではできない反応を実現-

ターゲット
公開日

吉田潤一 工学研究科教授、金熙珍 同助教らの研究グループは韓国のPohang University of Science and Technology(POSTECH)と共同研究を行い、マイクロ空間を利用して1万分の3秒の反応時間を活用した精密化学合成に成功しました。この極めて短い時間内で進行する分子の変化の制御を利用した新規合成法及び医薬品合成の開発に繋がることが期待されます。

本成果は2016年5月6日に科学誌「Science」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から吉田教授、金助教

今回見出した手法はこれまでの合成化学では活用できなかった1万分の1秒オーダーの短い時間領域を化学合成分野に適用することで得られた結果です。したがって、本手法を用いて極めて速く進行する分子反応・分子構造変化の制御を実現し、それを活用したさまざまな有機合成化学の発展が期待されます。

本成果のポイント

  1. 数値流体力学に基づき混合構造を最適化し、フローマイクロリアクターを設計・製作
  2. 1万分の1秒オーダーの反応時間を活用し、瞬時に進行する化学反応を自由自在に制御
  3. 極低温条件下でも極めて短い寿命を持つ反応中間体を用い、生理活性物質の簡便な合成を実現


概要

有機合成では極めて寿命の短い反応中間体を経由する反応がたくさんあります。このような短寿命中間体の多くは、フラスコのようなバッチ型反応器を用いて、二種類の原料を混ぜ反応させることで発生しますが、寿命が短いため原料の混合が完結する前に中間体が発生してすぐ分解してしまうか、より安定な異なる反応中間体に変化してしまいます。そのため、短寿命中間体を活用した化学合成を実現することは容易ではなく、短寿命中間体を経由し一瞬で進行する化学反応を制御するためには、1万分の1秒といった短い反応時間内で原料溶液を混合させ、瞬時に短寿命中間体を発生させる必要があります。

しかしながら、一辺あたり1 ミリメートル以下の大きさの空間で化学反応を行う装置でフローマイクロリアクターを用いた場合、原料化合物の混合は小さな空間内で行われるので、短い拡散距離に由来する高速混合が可能です。

そこで、研究グループはこの課題を実現するため、数値流体力学に基づき流路の構造による混合効率の効果を分析しました。このデータを基に小さな流路で三次元ヘビ状構造を設計し混合効率が高くすることで、このデータを基に、極めて短い時間内で混合が行われるような構造を設計し、得られた最適の構造を基にフローマイクロリアクターを製作しました。

このフローマイクロリアクターを用いて、小さな流路の中で流しながら反応を行うことで、流路を小さく且つ短く制御することで反応時間(流路内での滞留時間)を短く制御する特徴を最大限活かし、マイクロ空間を利用して反応時間1万分の3秒の精密化学合成に成功しました。

図:マイクロ空間で発生した短寿命中間体を活用した精密合成戦略

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1126/science.aaf1389

【書誌情報】
Heejin Kim, Kyoung-Ik Min, Keita Inoue, Do Jin Im, Dong-Pyo Kim, Jun-ichi Yoshida. (2016). Submillisecond organic synthesis: Outpacing Fries rearrangement through microfluidic rapid mixing. Science, Vol. 352, Issue 6286, pp. 691-694

  • 日刊工業新聞(5月12日 21面)に掲載されました。