ピロリ菌由来病原タンパク質CagAを全身に運ぶ小胞を発見 -ピロリ菌感染による非消化器疾患の発症メカニズムの解明へ-

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秋吉一成 工学研究科教授らの研究グループは、ピロリ菌の病原タンパク質CagAが細胞外小胞エクソソームに含まれることを初めて明らかにし、血流に乗って全身に運ばれることを見いだしました。

本研究は、畠山昌則 東京大学医学系研究科教授、東健 神戸大学医学系研究科教授、植田幸嗣 公益財団法人がん研究会グループリーダーとの共同で行ったもので、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」で1月7日(英国時間)に公開されました。

研究者からのコメント

本研究で、CagAがエクソソームの構成因子として胃の細胞から放出され、全身循環系に入ることを初めて明らかにしました。本成果は、これまでCagA陽性ピロリ菌の感染で発症リスクが高まるとされていた非消化器疾患の病因・病態解明に向けた第一歩となることが期待されます。近年では、ウイルス、寄生虫、そして今回注目したピロリ菌のような細菌など微生物感染にもエクソソームが関連していることが報告されています。有効なワクチンが開発されていない感染症も多く、エクソソームによる微生物病原因子の輸送メカニズムが解明されることで、ピロリ菌除菌による新たな治療法の開発にもつながると期待されます。

概要

ピロリ菌に感染するとCagAが胃上皮細胞内の分子と結合し、がん化を促進することが知られています。最近の研究では、ピロリ菌感染は心疾患や血液疾患、神経疾患などの胃粘膜病変以外のさまざまな全身疾患の発症に関わることが示唆されていますが、そのメカニズムは明らかになっていません。

研究グループはピロリ菌感染胃がん患者の血液中に存在する150ナノメートル程度の大きさのエクソソームにCagAが含まれることを発見し、CagAを発現する胃上皮細胞からCagAを含むエクソソームが分泌されていることが分かりました。さらに、このエクソソームは他の細胞内に入って生物活性を発揮することを明らかにしました。

近年、細菌やウイルス、寄生虫による感染症で、微生物由来の病原因子がエクソソームによって運ばれるという報告があり、感染症とエクソソームの関係が注目されています。本成果は、エクソソームがCagAを輸送する生体由来の運び屋として機能することを明らかにし、胃でのピロリ菌感染が全身で疾患を引き起こすメカニズムの解明の糸口となることが期待されます。

エクソソームによるピロリ菌CagAタンパク質の輸送

ピロリ菌により細胞に注入されたCagAはエクソソームとして血液中を移動し、さまざまな組織へと運ばれる可能性がある。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep18346
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/203011

Asako Shimoda, Koji Ueda, Shin Nishiumi, Naoko Murata-Kamiya, Sada-atsu Mukai, Shin-ichi Sawada, Takeshi Azuma, Masanori Hatakeyama & Kazunari Akiyoshi
"Exosomes as nanocarriers for systemic delivery of the Helicobacter pylori virulence factor CagA"
Scientific Reports 6, Article number: 18346 Published online: 07 January 2016

  • 京都新聞(1月26日 23面)、日本経済新聞(1月12日 34面)および科学新聞(1月22日 4面)に掲載されました。