カーボンナノチューブの新しい光機能「アップコンバージョン発光」を発見 -生体組織内部の近赤外光イメージング応用に期待-

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宮内雄平 エネルギー理工学研究所准教授、松田一成 同教授らの研究グループは、近赤外波長領域の優れた発光体として知られ、生体組織内部の発光イメージングや生体埋込型光バイオセンサー等への応用が期待されているナノ炭素材料「カーボンナノチューブ」を、従来とは全く異なる新しい方法で光らせることが出来ることを発見しました。

本研究成果は、2015年11月16日に英国科学誌「Nature Communications」誌のウェブサイトに掲載されました。

研究者からのコメント

宮内准教授

今回の発見は、これまで誰も予想すらしていなかったカーボンナノチューブの新奇な光機能が明らかになったという基礎科学的な意義を持つと同時に、カーボンナノチューブを用いた生体内部の発光イメージングや生体埋込型光バイオセンサーが、これまでよりも身近に、広く利用できるようになることに繋がるものと期待しています。

概要

物質に光を照射すると、照射した光とは異なる波長の光(蛍光)が放出されることがあります。一般的な蛍光物質では、蛍光の波長は、照射した光の波長よりも長いことが「ストークスの法則」と呼ばれる経験則として知られています。今回研究グループは、カーボンナノチューブにおいて、「アップコンバージョン発光」と呼ばれる、ストークスの法則に従わない珍しい蛍光発光現象が生じることを世界で初めて見いだしました。今回の研究では、直径0.8ナノメートル程度のカーボンナノチューブに1100ナノメートルから1200ナノメートル程度の波長の近赤外光を照射すると、波長が100ナノメートルから200ナノメートル程度短くなった950ナノメートルから1000ナノメートル程度の蛍光が得られることが分かりました。研究グループは、ナノチューブに特有のユニークなアップコンバージョン発光メカニズムも突き止めています。

従来、ナノチューブの蛍光を用いた生体内部のイメージングには、直径1ナノメートル程度のカーボンナノチューブから放出される波長1100ナノメートルから1400ナノメートル程度の通常の(ストークスの法則に従う)蛍光発光が用いられてきました(照射光の波長は1000ナノメートル以下)。波長1400ナノメートル程度までの近赤外の波長領域は「生体の窓」と呼ばれ、光が生体組織に遮られにくいため、マウスなどの実験動物体内の血管や臓器等の発光イメージングに最適と考えられています。しかしながら、波長1100ナノメートル以上の近赤外光は、広く普及しているシリコン製のCCDカメラでは全く捉える事ができないため、蛍光の検出に高価なレアメタル化合物半導体材料で作られた特殊なカメラを準備する必要がありました。今回の発見は、イメージングに利用する光波長の範囲を「生体の窓」領域内に保ったまま、照射光と蛍光の光波長を「入れ替える」ことを可能にします。したがって、照射する光として生体透過性の高い波長1100ナノメートルの近赤外光を使って、シリコン製のCCDカメラで捉える事ができる1000ナノメートル以下の短い波長の領域でナノチューブを光らせることができます。

(a)透明なガラス皿の底に敷き詰めた樹脂中に、封じ込めて配置されたカーボンナノチューブ分散溶液(ガラス皿中心部)の写真。比較のため、黒い蜂の巣模様が印刷された紙の上に載せて撮影。(b)同じ試料のアップコンバージョン発光画像。カーボンナノチューブの発光だけがクリアに観測されている。背景の紙や、蜂の巣模様に印刷されたインクからの発光は観測されない。(c)生体組織を模した光散乱体で覆われたガラス皿の写真。光散乱体は可視光領域では完全に不透明であり、背景の模様も見えなくなっている。(d)光散乱体(厚さ4ミリメートル)の後ろに置かれたカーボンナノチューブ分散液のアップコンバージョン発光画像。近赤外光の高い透過性により、散乱体があっても、カーボンナノチューブからの発光が鮮明に観測できる。(b)と(d)における照射光の波長は1064ナノメートル、光強度は約6ミリワット/平方センチメートル。シリコン製の電子増倍型冷却CCDカメラを用いて撮影

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9920
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/201728

Naoto Akizuki, Shun Aota, Shinichiro Mouri, Kazunari Matsuda & Yuhei Miyauchi
"Efficient near-infrared up-conversion photoluminescence in carbon nanotubes"
Nature Communications 6, Article number: 8920, Published 16 November 2015

  • 京都新聞(11月19日 25面)および日刊工業新聞(11月23日 13面)に掲載されました。