霊長類の脳神経回路を光で操作する手法の開発に成功 -霊長類が有する高次脳機能の解明や精神・神経疾患の治療への応用に期待-

ターゲット
公開日

井上謙一 霊長類研究所助教、高田昌彦 同教授と松本正幸 筑波大学医学医療系教授は、複雑に絡み合った脳神経回路において、ターゲットとする回路だけを光照射によって選択的に活性化させることに霊長類で初めて成功しました。

本研究成果は英国学術誌Nature Communications電子版(英国夏時間9月21日)に掲載されました。

研究者からのコメント

左から井上助教、高田教授、松本教授

この手法は、霊長類で高度に発達した脳機能のメカニズムの解明や、その破綻としてのさまざまな精神・神経疾患の病態の解明に役立つと考えられます。また、狙った神経回路の活動を適切なタイミングで調節することのできる本技術を応用することによって、パーキンソン病やうつ病などの治療で用いられる脳深部刺激療法を、特定の神経回路をターゲットにおこなうことが可能となり、より効果的な治療法の開発につながると期待されます。

概要

本研究グループは、眼球運動を制御する神経ネットワークのうち、大脳前頭葉の前頭眼野から中脳にある上丘への神経回路に着目し、光照射によって神経活動を活性化させるタンパク質を、アカゲザルのこの回路にのみ選択的にウイルスベクターを使って発現させました。このようにして、前頭眼野-上丘回路への光照射により、上丘の神経活動を高い時間精度でコントロールするとともに、この回路を活性化させることにより、サルの眼球運動を人為的に誘発させることに成功しました。

本研究グループが開発したこの技術を用いることによって、霊長類において特定の神経回路だけをターゲットとして、適切なタイミングでその回路の活動を操作・調節することが可能になりました。本研究の成果は、ヒトの高次脳機能の解明や、精神・神経疾患の病態の解明と新たな治療法の開発につながると期待されます。

左: 前頭眼野から上丘への神経路のみを光によって操作する実験系の概念図。右: 電気刺激と光遺伝学による神経回路選択的な光刺激との違い

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms9378

[KURENAI] http://hdl.handle.net/2433/210503

Ken-ichi Inoue, Masahiko Takada & Masayuki Matsumoto
"Neuronal and behavioural modulations by pathway-selective optogenetic stimulation of the primate oculomotor system"
Nature Communications 6, Article number: 8378, Published 21 September 2015

  • 日本経済新聞(9月22日 30面)および読売新聞(10月26日 13面)に掲載されました。