せっけんの構造をまねて高分子太陽電池の高効率化に成功 -色素を高濃度で導入し、限界効率打破に貢献-

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公開日

大北英生 工学研究科准教授、伊藤紳三郎 同教授らの研究グループは、有機薄膜太陽電池の一種である高分子太陽電池に高濃度に導入できる近赤外色素を開発し、変換効率をおよそ3割(3.8%から4.8%に)向上させることに成功しました。

本研究成果は、2015年8月27日(英国時間)に独国科学誌「Advanced Materials」のオンライン速報版で公開されました。

研究者からのコメント

左から伊藤教授、大北准教授

今回の研究成果により、次世代の太陽電池として注目されている高分子太陽電池の限界効率を引き上げることが可能であり、実用化の目安である変換効率15%をシンプルな構造の単セル素子でも実現しうるアプローチとして期待されます。

概要

有機材料が吸収できる太陽光の波長幅は小さく限られていますが、可視光領域外の近赤外領域の太陽光を吸収できる色素(近赤外色素)を高分子太陽電池に高濃度で導入することで大幅な高効率化が期待できます。しかし、導入した近赤外色素が発電に寄与するには、ドナーである高分子材料とアクセプターであるフラーレンの界面に色素が存在する必要がありますが、色素を高濃度で導入すると、界面以外の領域に散在し、発電効率がかえって低下するという課題がありました。

そこで、本研究グループは、せっけんの親水基と疎水基を同時にもつ構造をまねて、ドナー材料と親和性の高い軸配位子とアクセプター材料と親和性の高い軸配位子を同時にもつヘテロ構造の近赤外色素を開発しました。その結果、色素を重量比で従来の3倍導入することができ、変換効率もおよそ3割向上することに成功しました。

三元ブレンド高分子太陽電池の発電特性
(上)電流-電圧曲線:P3HT/PCBM二元ブレンド参照素子(黒)、P3HT/PCBM/SiPcBz(青色)、P3HT/PCBM/SiPc6(橙色)、P3HT/PCBM/SiPcBz6(赤色)三元ブレンド素子。ヘテロ構造色素を導入したP3HT/PCBM/SiPcBz6三元ブレンド素子(橙色)はP3HT/PCBM二元ブレンド参照素子に比べて、変換効率がおよそ3割向上している。(下)外部量子収率スペクトル: P3HT/PCBM二元ブレンド参照素子(黒)、P3HT/PCBM/SiPcBz(青色)、P3HT/PCBM/SiPc6(橙色)、P3HT/PCBM/SiPcBz6(赤色)三元ブレンド素子。680nm付近の信号が色素由来の電流発生効率を表す。ホモ構造色素(SiPcBz、SiPc6)に比べて、ヘテロ構造色素(SiPcBz6)の電流発生効率はほぼ倍増している。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/adma.201502773

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/199677

Huajun Xu, Hideo Ohkita, Yasunari Tamai, Hiroaki Benten, and Shinzaburo Ito
"Interface Engineering for Ternary Blend Polymer Solar Cells with
Heterostructured Near-IR Dye"
Advanced Materials, Article first published online: 27 August 2015

  • 京都新聞(8月29日 25面)、日刊工業新聞(8月28日 31面)および科学新聞(9月18日 6面)に掲載されました。