ヒトiPS細胞由来の腎前駆細胞を使った細胞移植で急性腎障害(急性腎不全)のマウスに効果

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豊原敬文 iPS細胞研究所(CiRA)研究員、長船健二 同教授らの研究グループは、腎臓の再生医療に関する共同研究において、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した腎前駆細胞の移植により、マウスの急性腎障害(Acute Kidney Injury; AKI)による腎機能障害や腎組織障害が軽減することを発見しました。

本研究成果は、2015年7月21日午前9時(米国東部時間)に「Stem Cells Translational Medicine」でオンライン公開されました。

研究者からのコメント

左から前伸一 CiRA研究員、長船教授

今回の成果から、急性腎障害に対する治療薬を開発することができるかもしれません。また、慢性腎臓病や慢性腎不全の治療を目指して、少しでも早く患者さんのもとに新しい治療法を提供できるように、研究を進めて参ります。

本研究成果のポイント

  • ヒトiPS細胞から腎臓の前駆細胞を作製する方法を確立した。
  • 急性腎障害のマウスに腎臓の前駆細胞を移植することで治療効果が認められた。
  • 腎疾患にも細胞移植療法が開発できる可能性がある。

概要

腎臓の機能が急激に低下することを急性腎障害といいます。 処置を行った患者さんでも60%程度は死に至ります。これまでの方法ではこの急性腎障害により受けた腎臓のダメージを軽減することはできておらず、ヒトiPS細胞を使った細胞移植が新しい治療の選択肢の一つとして期待されています。

本研究グループは今回、ヒトiPS細胞からOSR1とSIX2という二つのタンパク質を発現している腎臓の前駆細胞へと分化させ、虚血性の腎障害を起こしたマウスの腎被膜下へ移植し、治療効果を検証しました。

今回の研究において、ヒトiPS細胞からOSR1とSIX2というタンパク質を指標に腎臓の前駆細胞を作製し、その細胞が 腎臓の尿細管様の3次元の管構造を作る能力を持っていることを明らかにしました。さらに、虚血再灌流により急性腎障害を生じたマウスに、この腎臓の前駆細 胞を移植したところ、症状を緩和することを確認しました。特に腎機能の指標である血中尿素窒素(BUN)と血清クレアチニンの検査値の上昇が顕著に抑えら れ、組織学的な変化も抑えられました。


細胞移植から12日後の組織切片の観察像(Masson's Trichrome染色)青い部分は線維化が起こっていることを示している。 赤:細胞質、青:コラーゲン線維

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.5966/sctm.2014-0219

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/218482

Takafumi Toyohara, Shin-Ichi Mae, Shin-Ichi Sueta, Tatsuyuki Inoue,
Yukiko Yamagishi, Tatsuya Kawamoto, Tomoko Kasahara, Azusa Hoshina, Taro
Toyoda, Hiromi Tanaka, Toshikazu Araoka, Aiko Sato-Otsubo, Kazutoshi
Takahashi, Yasunori Sato, Noboru Yamaji, Seishi Ogawa, Shinya Yamanaka,
Kenji Osafune
"Cell Therapy Using Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Renal
Progenitors Ameliorates Acute Kidney Injury in Mice"
Stem Cells Translational Medicine, First Published Online July 21, 2015

  • 朝日新聞(7月22日夕刊 7面)、京都新聞(7月22日 26面)、産経新聞(7月22日 24面)、中日新聞(7月22日 3面)、日刊工業新聞(7月22日 25面)および毎日新聞(7月22日 27面)に掲載されました。