2014年7月11日
内本喜晴 人間・環境学研究科教授、折笠有基 同助教、陰山洋 工学研究科教授、タッセル セドリック 白眉センター特定助教らの研究グループは、高輝度光科学研究センターと共同で、既存のリチウムイオン電池に置き換わることが可能な高エネルギー密度マグネシウム金属二次電池の開発に成功しました。開発した二次電池は埋蔵量の多いマグネシウム、鉄、シリコンが主な構成元素であり、低コスト化が期待されます。また、融点の高いマグネシウム金属に置き換えたことで、電池の熱的安定性が改善され、従来のリチウムイオン電池よりも飛躍的に安全性が向上します。
本研究成果は、2014年7月11日午前10時 (英国時間)付けで、Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
現在最もエネルギー密度の高い二次電池であるリチウムイオン電池は、電気自動車用電源、定置用電源としての用途への展開が期待され、さらなるエネルギー密度と安全性の向上、低コスト化が強く求められています。今回開発したマグネシウム二次電池は、正極に強固なSi-O結合で構造が安定化されたポリアニオン化合物を用い、電解質として腐食が問題にならない化学的に安定なエーテル系溶媒を組み合わせています。
さらに、マグネシウム金属を負極に用いることにより、リチウムイオン電池で問題であった安全性を解決し、高いエネルギー密度(1回の充電により長時間の使用が可能)を実現することを可能にしました。この二次電池は、新しいタイプの革新型二次電池として、実用化へ向けた研究開発が加速するものと期待されます。
概要
マグネシウム二次電池は高い理論容量密度を持ち、資源量が豊富で、安全性が高いという利点から、リチウムイオン電池を超える二次電池として実用化が期待されています。しかし、二価のマグネシウムイオンは一価のリチウムイオンと比較して、相互作用が強く、固相内で拡散しにくく、電極反応が極端に遅いことが問題でした。また、マグネシウム金属を繰り返し溶解析出することが可能な、安定かつ安全に充電・放電を行うためのマグネシウム電解液が見つかっていません。つまり、マグネシウム二次電池の創製には、正極・電解液それぞれの問題点を解決する必要がありました。
本研究では、正極材料の結晶構造を精密に制御することにより、マグネシウムイオンの拡散パスを確保したMgFeSiO4正極材料を報告しました。この材料を用いることで既存の正極材料と比較して2倍のマグネシウムイオンを挿入脱離することが可能となりました。この材料はSi-Oの結合によって安定化されているため、長期間にわたって充放電を繰り返すことが可能です。さらに、マグネシウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Mg(TFSI)2)とトリグライム(Triglyme)を組み合わせた電解質によるマグネシウム金属負極の安定な動作を実証しています。なお、本研究では、大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いることにより、安定で高エネルギー密度の充放電反応のメカニズムの解明に成功しました。そして、この正極と電解質にマグネシウム金属を負極として組み合わせることで、世界最高性能のマグネシウム二次電池の作製が実現しました。
図:本開発で実証した高エネルギー密度、高安全性マグネシウム二次電池
詳しい研究内容について
高エネルギー密度・高安全性・低コスト二次電池の開発に成功 -リチウムからマグネシウム金属へ-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep05622
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/188958
Yuki Orikasa, Titus Masese, Yukinori Koyama, Takuya Mori, Masashi Hattori, Kentaro Yamamoto, Tetsuya Okado, Zhen-Dong Huang, Taketoshi Minato, Cédric Tassel, Jungeun Kim, Yoji Kobayashi, Takeshi Abe, Hiroshi Kageyama & Yoshiharu Uchimoto
"High energy density rechargeable magnesium battery using earth-abundant and non-toxic elements"
Scientific Reports 4, Article number: 5622 Published 11 July 2014
掲載情報
- 朝日新聞(7月12日 5面)、京都新聞(7月12日 25面)、中日新聞(7月12日 3面)、日本経済新聞(8月12日 17面)、読売新聞(7月12日 35面)および科学新聞(7月25日 1面)に掲載されました。