湊長博 総長からの益川敏英 名誉教授逝去に関してのコメント

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 益川敏英名誉教授の訃報に接し、我が国全体のみならず、京都大学にとっても大きな損失であり誠に残念でなりません。京都大学の教職員を代表して心からご冥福をお祈り申し上げます。
 益川敏英先生は、 昭和42年名古屋大学大学院理学研究科博士課程を修了して理学博士の学位を授与され、名古屋大学理学部助手等をへて、昭和45年5月京都大学理学部助手に就任されました。昭和51年4月東京大学原子核研究所助教授に転出された後、昭和55年4月京都大学基礎物理学研究所教授、平成2年11月京都大学理学部教授、平成7年4月京都大学大学院理学研究科教授、平成9年1月京都大学基礎物理学研究所教授を歴任し、平成15年3月定年退職され、京都大学名誉教授の称号を授与されました。

 この間、益川先生は篤実な人柄と深い学識で、学部学生、大学院学生の教育、研究指導にあたられ、多くの優れた後進研究者を育成されました。また、平成7年12月から1年間学生部長、留学生センター長、体育指導センター長を併任され、学生との対話にも気さくに応じられました。益川先生が学生部長をされていた折には、私も学生部委員としてご一緒させていただきましたが、いつもあの笑顔とざっくばらんな調子で学生たちの対応をされていたのをよく憶えています。平成9年4月より三期6年間にわたり、京都大学基礎物理学研究所長並びに京都大学評議員を併任され、本学の管理運営にも多大な貢献をしていただきました。京都大学教育研究評議会での、歯に衣着せぬ正論の発言も心に残っています。

 一方、研究面において益川先生は、多年にわたり、素粒子理論の研究・教育に努め、昭和48年に小林誠高エネルギー加速器研究機構教授(当時京都大学助手)と共に、物質を構成する基本粒子のクォークが少なくとも6種類あるとする予言を理論的に提唱し、さらに宇宙組成の謎を解明する「CP対称性の破れ」の現象を説明する「小林・益川理論」を発表されました。これらの成果は素粒子物理学、宇宙物理学の多くの研究分野の発展に極めて大きな影響を与えるものであり、これらの業績に対して、昭和60年6月に日本学士院賞を受賞し、平成13年度の文化功労者として顕彰され、平成20年には文化勲章、ノーベル物理学賞を受賞されました。 

 これからも様々な分野でご指導・ご支援いただきたいと思っていたところ、このたびの訃報に接し、京都大学の大きな精神的支柱を失ったような痛惜の念でいっぱいです。
 これまでのご指導とご支援に心から御礼申し上げますとともに、ご冥福をお祈りしたいと思います。

令和3年7月30日
京都大学総長
湊 長博