在宅療養環境コントロール居室プロトタイプを開発 -平成32年の実用化を目指して実証実験を開始-

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若村智子 医学研究科教授

医学研究科人間健康科学系専攻の若村智子研究室では、住空間を基調とした、居住者の生体情報に合わせた環境コントロールが可能なシステムを開発し、実験用プロトタイプを大学内に設置しました。

本開発は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のCOIプログラムの一環として、環境コントロール技術を組み込んだ睡眠空間開発に実績がある積水ハウス株式会社と、快適空間を実現するエアコン開発に実績があるダイキン工業株式会社との共同研究によるもので、平成32年の実用化を目指して実証実験を開始しました。

1.背景

長寿高齢化に伴い増加する要介護高齢者に対し、安寧な療養生活を在宅で提供することが大きな課題となっています。また、高齢者施設においても、自宅にいるような住空間を感じられる空間設計が提供されつつあります。

昼夜や四季のような自然のリズムに沿って人間のリズムも刻んでいるという考え方のもと、若村研究室では、生体リズムと睡眠の関係、睡眠と光環境や温熱環境に関する研究に取り組んできました。近年、日常生活の中での健康管理を目的とする多くの機器やセンサが開発されており、精度の高い生体情報の取得により、ひとりひとりに合わせた居住環境コントロールによって、生活者の健康維持増進が今後ますます期待できるようになってきています。

2.研究手法・成果

安寧な療養環境を住空間で実現し、介護予防や介護度の軽減につなげることを目標とする本プロトタイプは、生体リズム視点を取り入れた「時間治療」という考え方を具現化し、生体情報に基づいた睡眠環境のコントロール手法を、昼夜にわたる長時間居住実験により検証することが可能です。空間環境の違い、生活者の年齢や生活のリズムの違いなど、睡眠の質にかかわる要因の確定と、実生活で可能な人と空間のインターフェイス技術の精度向上を効率的に行うことができます。

同一の広さと設備を有する、左右対称な二室を持つ本プロトタイプは、個々の生体情報センサからのリアルタイムのデータ収集、分析を行うサーバ、環境制御装置、照明システム・エアコン・BGM・アロマなどの環境コントロール設備で構成しています。さらに、日中の光環境を人工的に再現して実験を行うため、屋外光を再現する照明システムを組み込んだ疑似窓を設けました。各部屋はそれぞれ独立して環境制御ができるため、二室間で環境や生活などの条件を変えた実験が可能です。

また、これまでの多くの研究がいわゆる「実験室」で行われてきたのに対し、本プロトタイプでは、日常的な居住空間デザインとなっており、現実的な環境下で検証を行うことができます。したがって本空間は、機能やデザインについても実用可能なレベルのデザインであり、多くの住宅や療養施設に導入することを可能とする、インフィルシステムとしてのプロトタイプとなっています。

3.波及効果

本技術に基づく空間が実用化すれば、生活者の睡眠の質を大幅に改善し、日中のパフォーマンスの向上などの生活の質に関わる効果が期待されます。「睡眠」は、疲労を軽減させ、心身を回復させるために重要です。本研究の成果によって睡眠の質を最適にすることは、高齢者だけでなく忙しい社会貢献期の多くの人々の健康維持を図ることが可能となると考えています。

4.今後の予定

一定期間、生活者が滞在する日常生活実験により、これまでに明らかになった前額皮膚温の日内変動を活用するとともに、生活に無理のないセンシングと生活のリズムに合わせたコントロールを行い、睡眠の質に関する検証を行います。本プロトタイプを用いた研究開発の目標は以下の2点です。

  1. 生活リズムや生活習慣によって変わっていく人それぞれが持つ生体リズムを、生活の中で容易に計測が可能な生体情報センシングによって導きだす予測モデル
  2. センシング結果に基づき最適な環境を提供するアルゴリズムによって、個別の生活者の安寧な生活を実現する環境コントロールプログラム

将来的には、本プロトタイプにおいて、本研究成果の精度を高めていくためにエビデンス取得を目的とした実験を行い、さらに、生体リズム分析に基づく介入表示・助言などのサービスの開発と組み合わせて、平成32年の社会実装・実用化を目指します。

なお、本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援を受け、「活力ある生涯のためのLast 5Xイノベーション拠点」の事業・研究プロジェクトによって得られました。

在宅療養環境コントロール居室

居室内部の様子