令和6年度学部入学式 来賓祝辞

令和6年度学部入学式 来賓祝辞(青山愛 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)人道・難民プロジェクト担当官)

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青山愛 国際連合教育科学文化機関(UNESCO)人道・難民プロジェクト担当官

 京都大学の新入生の皆さん、この度はご入学本当におめでとうございます。そしてここまで支えてこられたご家族、ご親族の皆さま、おめでとうございます。

 私も17年前、皆さんと同じように、期待で胸を膨らませながら、入学式の席に座っていたことを懐かしく思い出しています。鴨川でのバーベキュー、打ち込むサークル活動、学食での談義、ゼミ仲間との合宿。きっと、楽しく鮮やかな日々が皆さんを待っています。そして、ちょっと変わり者が集まるといわれている京都大学の、自由な校風が大好きでした。

 今回、皆さんに祝辞を送らせていただけるという素敵な機会をいただき、フランスのパリからやってきました。京都大学は、地球をひとつの社会として捉える、地球社会への貢献をビジョンの一つとして掲げています。したがって、今日は、少しだけ皆さんの先輩である私のこれまでの経験を通して、二つのテーマ、「異なる他者への理解」と「挑戦」についてお話し、少しでも世界を、身近に感じてもらえればと思っています。

大学時代に見つけた「声なき声」を伝える仕事

 私は2011年に京都大学の経済学部を卒業し、アナウンサーになりました。そのきっかけを作ってくれたのは、大学時代の経験です。授業の一環で、アジアでの課題を学ぶスタディーツアーに参加したとき、中東のテレビ局アルジャジーラの事務所を訪問しました。そこの壁に大きく、「声なき声に光を」というスローガンが描かれていました。「なんて、かっこいいのだろう」と胸を掴まれたのを覚えています。

 私自身、幼少期をアメリカで過ごしましたが、白人社会の中で、クラスでただ一人の日本人、アジア人という環境がよくありました。見た目も文化も違う。人種の壁を前に、葛藤した経験があります。なかなか周りに受け入れてもらえず、トイレでよく一人でお弁当を広げていました。だからこそ、社会の中で、光が当たりにくい、埋もれてしまう、そんな人々の声や姿を伝え、届けることができる仕事に、心が動かされました。

 もっと、世界で、光の当たらない声を伝えたい。日本のテレビ局から海外へと活動を移し、迫害を受けて国を追われた人たちや、人道危機に対応する国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に入職したのは、そんな想いからです。そして2022年、ロシアの侵攻後直後にウクライナに入り、去年の夏まで、緊急対応チームの一員として活動しました。

 私の役目は、「報道官」として、現場の声を国際的な支援に繋げること。刻々と変わる現地がどんな様子で、どんな支援が必要なのか。戦争を生き抜く人々の声や想いと共に、約1年半にわたり、伝え続けました。

 そんな私のウクライナでの日々を、ほんの一部分ではありますが、ご覧いただきたいと思います。冒頭に爆撃と空襲警報の音が鳴りますので、無理なさらず、お気をつけて、ご覧ください。

(当日はビデオが上映されました。)

 14,654回。

 この数字は、2022年の1年間、ウクライナで鳴ったといわれる空襲警報の回数です。生活を中断し、防空壕に駆け込み、時には眠気が襲う真夜中に、時には凍える寒さの中で、どうか悪いことが起こらないようにと、そう願いながら、私たちが警報が解除されるのを待った回数です。

 それでも、諦めることなく「今」を生きようとする人々の姿が一番印象に残っています。防空壕の中でも、懐中電灯を照らしながら宿題を続ける高校生。警報の合間を縫って、目一杯はしゃいで過ごす公園の子供たち。ぼろぼろになったお庭を次の春に向けて耕すおばあちゃん。お孫さんを戦闘で亡くされ、大切な家も半壊しました。今、何か必要なものはありますか?と私が尋ねると、「平和」とぽつりと、静かに答えられたのを覚えています。

 平和の脆さや人の残酷さ、一方で、強さや温かさ、そして、託されたこの平和への切なる願いを伝えていきたいと、強く感じました。

異なる他者を受け入れる勇気

 今日、お話したい一つ目のテーマが、この平和に繋がる「異なる他者への理解」です。

 私が今働く国際連合教育科学文化機関(UNESCO)は、教育や文化を通した平和への活動を行っていますが、その憲章の中に、このような一文があります。「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、その心の中に平和のとりでを築かなければならない。」

 どうでしょう。とてつもなく崇高で、少し綺麗ごとにも聞こえてしまうような、難しいミッションです。そして、皆さんには、遠くのことのように感じるかもしれません。でも、知っていましたか?戦後の日本が初めて加盟した国連機関はこのミッションを持つユネスコであり、日本が国際社会へと復帰していく歩みには、この理想と想いがありました。

 この「平和のとりで」への一歩は、異なる他者を受けいれる勇気を一人一人が持つことではないかと思っています。人々が争う多くの要因は、アイデンティティの衝突とも言われています。例えば、今、隣に座っている人が、自分とは異なる見かけで、違う当たり前や、かけ離れた価値観を持っていたなら。そんなときに、恐れたり、排除するのではなく、まずは理解することを選び、共存することを目指し、逆に自分ではたどり着けないような新たな気づきや創造に変えていく。そんな取り組みの積み重ねが、「平和のとりで」を築いていくのではないかと、私は考えています。

 そして、世界で故郷を追われる人が史上最多となり、ウクライナのみならず、スーダン、ガザと戦火が止まない今、より一層必要な取り組みです。なにも遠い国々の問題ではありません。諍いだけではなく、環境問題、災害、グローバルなパンデミック。私たちの世界は繋がっています。これから皆さんの前に立ちはだかる地球規模の課題は、世界の若者と力を合わせ、異なる価値観や視点を出し合ってこそ、解決策を見出していけるものだと思っています。

 だからこそ、どうか、大学生活を通して、自己とは異なるものと向き合う時間や機会をできるだけ多く作り、自分がマイノリティになるような場所にも行ってみてください。私自身、京都大学では、交換留学制度を活かしてアメリカへ留学したり、モンゴルでのボランティア活動に参加したり、フランスでの語学研修に取り組んだりしました。学内にとどまることのない多様な他者との出会いや学びは、確実に今に繋がっています。

 大学のキャンパスは、京都だけでなく、世界です。

自分を越えていく挑戦を

 そして、二つ目のテーマ、「挑戦」について伝えたいことがあります。

 世界人権宣言の草案を推進したことでも知られるアメリカのエレノア・ルーズベルトさん が言ったのは、「You must do the thing you think you cannot do - 自分にできないと思っていることをやってみなさい。」私はこの言葉に何度も背中を押されてきました。

 社会には、「こうあるべき」という枠や型が溢れています。女性だから、男性だから、こうしないといけない、若者や大学生だったらこうあるべき、日本人だったらこう。そんな枠や周りからの認識、求められる姿に、知らず知らず自分をはめてしまうと、その枠の外へ出ることが怖くなったり、とても難しいように感じてしまいます。自分なんかにはできないのかもしれないと。国連に転職するときに、「女性アナウンサーという仕事をしていた君に、人道の世界なんてハードなことはできないだろう」と言われたこともありました。

 でも、自分にできないと思っていることへの挑戦こそが、自身の可能性を広げ、見たことのない景色をもたらしてくれるということを、今なら実感できます。

 周りには、3人の子供を持ちながら戦地を渡り歩く先輩もいるし、難民としてパラリンピックの舞台に立った友人もいます。そんな周りの挑戦に勇気づけられながら、私だって、人道支援の最前線に行くことができました。思えば、社会を変革する新たなイノベーションは、かつて不可能だと思われていたことに挑戦した誰かの手によって生まれたものです。自分自身に対するイノベーションも同じです。

 ですので、皆さんも、大学生活の中で、そしてこの先、「自分にはできないと思っていること」にこそ、勇気をもって挑戦していくことを願っています。

 

 最後になりますが、今日私が触れた、国境や人種を越え、地球社会に貢献していく担い手のことを、グローバル・シチズン、地球の市民と呼ぶことがあります。私は京都大学での学び、そして日本人としての価値観を生かしながら、地球のいち市民として、今、170か国から来る同僚たちと働けることに誇りを感じています。

 皆さんにとっても、京都大学で過ごす時間が、異なる価値観とたくさん出会い、地球社会への貢献を考え、実現するスタートとなりますように。そして、今までの自分を越えていく、素敵な挑戦で溢れますように。心から応援しています。

 いつか、世界のどこかで、お会いしましょう。

 この度は本当におめでとうございます。