柏原正樹 数理解析研究所教授が日本学士院会員に選ばれる (2007年12月12日)

柏原正樹 数理解析研究所教授が日本学士院会員に選ばれる (2007年12月12日)

  このたび,柏原正樹数理解析研究所教授が日本学士院会員に選ばれました。
  以下に柏原教授の略歴,業績等を紹介します。

 柏原 正樹教授は,昭和44年5月東京大学理学部を卒業,同46年3月同大学理学系研究科数学専門課程修士課程を修了後,同46年4月京都大学数理解析研究所助手,同49年4月名古屋大学理学部助教授,同53年9月京都大学数理解析研究所助教授を経て,同59年4月に教授に昇任,現在に至っています。この間,平成13年から2年間,さらに同19年4月より数理解析研究所所長を務めています。

 柏原教授は1970年代から現在まで,世界的な中心として代数解析学の革新と発展,その応用を主導してきました。同教授によるD加群の理論とその表現論への応用は,現代数学の中に大きな流れを作り出しています。

 代数解析学の対象は,函数とそれが満たす方程式です。代数幾何学が図形を代数方程式系の解として研究するのに対し,代数解析学は函数を微分方程式系の解として研究します。

 同教授の最初の仕事は,佐藤幹夫氏(本学名誉教授),河合隆裕氏(数理解析研究所教授)との共同での線形偏微分方程式系の分類理論の完成でした。ここでは,函数の特異性を超局所的に分解するという革新的なアイデアが用いられました。これは,波動を三角級数に分解するというFourierのアイデアに比肩し得る解析学の革新です。

 続いて,同教授は河合氏と共同で,複素1変数の微分方程式論の基本的道具立てである確定特異点型の方程式の多変数への拡張を目指し,D加群の理論を構築しました。同教授はその応用として,リーマン・ヒルベルト対応の高次元化に成功しました。函数の性質はその特異点に集約され,特異点での函数の性質は,函数の満たす方程式の特異点を調べることによって解析されるというのがリーマンのアイデアです。同教授はこのアイデアを高次元化した形で現代数学に甦らせました。これにより代数解析学とD加群の理論は,線形偏微分方程式論を越えて,現代数学の基本的手段としての位置付けを得ました。

 Brylinski氏との同教授によるKazhdan-Lustzig 予想の解決には多様体と表現論(対称性の研究)を結びつけるものとして,上記リーマン・ヒルベルト対応が用いられています。この業績は,表現論を幾何と関連させて研究する大きな潮流の嚆矢となりました。

 同教授は,1988年に朝日賞(河合氏との共同受賞)および学士院賞を受賞し,2002年にはパリ科学アカデミー外国人会員に選ばれるなど,一連の仕事は国内外で大きな評価を受けています。