安寧の都市ユニット開設記念シンポジウムを開催しました。(2010年10月9日)

安寧の都市ユニット開設記念シンポジウムを開催しました。(2010年10月9日)

 本年4月、工学研究科・医学研究科が共同で設置した「安寧の都市ユニット」は、社会人17名と学内学生をユニット履修生に迎えて10月6日に開講、本格的に始動したことを記念して、同9日、安寧の都市ユニット開設記念シンポジウムを開催しました。

 当日は、三連休の初日、かつ雨に降られる悪天候の中、会場となった百周年時計台記念館には、ユニット履修生、学内教員および学生、自治体や企業の方、一般聴講者など、合わせて約150人の方々が聴講に訪れました。

 シンポジウム冒頭、京都大学を代表して、塩田浩平 理事・副学長が壇上に立ち、挨拶をしました。塩田理事・副学長は、「京都大学という大きな歴史ある大学が持つ豊富な人材と知財を活かした、総合大学でこそ可能な学際的ユニットであり、社会人と学生とが一緒に勉強することで将来の活躍のネットワークを築きながら、現実の様々な困難な状況に対応する応用力を身につけることが可能」と、本ユニットの意義を強調しました。また、「健康医学と都市系工学を融合した学問領域・健康人間都市科学の創生を目指し、複雑な社会に適切に対応できる新しい学問を切り拓いていきたい」との決意を語りました。

 続いて、ユニット長の谷口栄一 工学研究科教授が、安寧の都市ユニットの理念やビジョン、戦略について説明しました。谷口教授は、ビジョンとして「(こころを含む)安心・安全(Safety and Security)」「持続可能性(Sustainability)」「居住性(Liveability)」の三つを挙げて説明し、その実現戦略として、都市計画よりもう少し広い視野から「都市ガバナンス」とそのマネジメント・サイクルを考えること、これを「ステークホルダーの参画」の元で進めていくことが重要であり、本ユニットの特徴でもあると述べました。

 記念講演は2部に分けて行い、安寧の都市の考え方やその実践に大変造詣の深いお二人の先生を、工学・医学両分野からそれぞれお招きして、記念講演をしていただきました。

 第1部の記念講演では、工学分野から、景観工学の開拓者・第一人者である中村良夫 東京工業大学名誉教授(前・京都大学工学研究科教授(土木システム工学専攻))に、「「安寧の都市」論の構築に向けて~身体と場所の風景論から~」と題して講演をいただきました。

 中村氏は、豊富な教育研究と実践の実績に基づき、実体験を交えながら、風景の理論をわかりやすく解説され、「身体を通じた場所への参加」の感覚を重視し、身体を場所に組み入れた新たな風景論を展開されました。その上で、身体を通じて場所に参加する人が自ら生成する風景を含めた、デザインの拡張・再定義が必要ではないか、と述べられました。

 第2部の記念講演では、医学分野から、病院総長という立場で地域医療の現場に携わっておられる小川道雄 市立貝塚病院総長(元・熊本大学副学長)に、「「安寧の都市」づくりに向けて~地域医療はどうなるか~」と題して、講演をいただきました。

 小川氏は、医師として、また病院経営者として、幅広く医療に携わっておられる経験から、現場の医療体制と地域医療の切実な問題とその複雑な構図を、具体的事例やデータに基づき、我々に身近な問題としてわかりやすく説明されました。その上で、今後の地域医療とまちづくりのキーワードとして「集約化」を挙げ、コンパクトシティの考え方にも結びつく示唆に富んだ展望を示されました。

 小川氏の講演後、盛大な拍手に迎えられて再度壇上に上がったお二人から、それぞれキックオフを迎えたばかりの当ユニットへの激励の言葉がありました。中村氏は、「もう一度、都市論を新たな視点からやり直さなければならない。公と私の仕分け方を再構築し、都市を再編集する。安寧あるいは健康という機能主義の時代にはまったくなかった発想から、新しい安寧の都市論をぜひこのユニットから全国に発信していってほしい」と話されました。小川氏は、「中村先生と私の話の接点を考え、それをつくっていくことがこのユニットの役割。数年後にはきっと何か接点が出て、良い安寧の都市の助言ができると期待している」と話されました。

 シンポジウムの最後に、工学研究科・医学研究科を代表して、小森悟 工学研究科長が挨拶に立ち、シンポジウムに参加いただいた方々をはじめとする皆様方の絶大なるご協力とご支援をお願いして、シンポジウムは幕を閉じました。

 安寧の都市の実践教育とそれを支える学術研究は、今まさに端緒に着いたばかりです。形だけの連携にとどまらない医工分野の真の融合への期待と使命の大きさを再確認させる、意義深いシンポジウムでした。

 なお、平成23年度のユニットは4月開講とし、募集要項・応募要項など詳細は、11月以降に同ユニットホームページ(http://www.ulc.kyoto-u.ac.jp/)に順次掲載していく予定です。


中村 東京工業大学名誉教授の記念講演の様子

小川 市立貝塚病院総長の記念講演の様子