世界初の加速器によるホウ素中性子捕捉療法の動物実験を開始しました。(2009年8月5日)

世界初の加速器によるホウ素中性子捕捉療法の動物実験を開始しました。(2009年8月5日)

 京都大学原子炉実験所は、研究用原子炉(KUR)中性子を用いて実施してきたX線抵抗性悪性腫瘍(癌)や再発腫瘍に対するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が良好な効果を示していることから、加速器を利用した中性子源と照射システムを構想し、住友重機械工業株式会社と共同で開発を進めてきました。これは、サイクロトロン加速器で30MeVに加速した陽子をベリリウム標的に衝突させることにより発生した中性子のエネルギーをBNCTに適したものに調整して照射するシステムです。このたび、照射中性子強度(一秒間に単位面積を通過する中性子数)などの性能が、生物学的基礎実験に対応可能なレベルに到達したため、7月17日より動物実験を開始しました。

 しばらく、動物実験による生物効果の十分な確認や照射中性子の物理学的特性をより詳細に把握する実験研究を続けるとともに、さらに中性子強度の向上を図る予定です。その後、性能が所期の目標に到達した段階で、臨床試験研究を計画する予定です。


サイクロトロン中性子源と照射システム

【用語説明】

  • ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)
     BNCTはBoron Neutron Capture Therapyの略。ホウ素の安定同位体であるB-10(天然ホウ素中に約20%含まれる)の原子核はエネルギーの低い低速の中性子(熱中性子)をよく吸収し、直ちにヘリウム原子核(α粒子)とリチウム原子核に分裂する。これら原子核は飛ぶ距離が4~10ミクロンと極めて短く、細胞を破壊する能力が非常に 大きい(X線の7~8倍)。一方、熱中性子自体の細胞破壊能力は小さい。従って、B-10を含む物質が癌細胞に選択的に集積し、そこに中性子が照射されるとその細胞は選択的に破壊される。これがBNCTの原理である。
  • サイクロトロン
     1930年、アメリカのカリフォルニア大学のローレンスとリヴィングストンとが創案した円形のイオン加速器である。粒子を円形運動させるための磁界を作る磁石と粒子を加速するための高周波電界を発生させる電極(もともとD型をしていたのでディー電極と呼称)により、うず巻型の軌道をとらせながら次第に加速する装置である。原子核反応の研究、放射性同位元素の製造、医療用(PET用アイソトープ生産、癌の放射線治療等)に用いられている。