京都大学産官学連携センターは、知的財産の活用において日本国内だけではなく海外においても積極的に推進してきました。その取り組みの一環として今回、本学の発明(特許出願済)を海外企業にライセンスする契約を締結しました。
当該発明(特許出願済)について
- 名称: 含ケイ素クロスカップリング反応剤およびこれを用いる有機化合物の製造方法
- 特許出願日: 平成17年4月14日
- 特許国際公開番号: WO 2006・112073 AI
- 特許出願国: 日本、米国、豪州
- 発明者
(1) 檜山 爲次郎 : 京都大学大学院工学研究科 教授
(2) 中尾 佳亮 : 京都大学大学院工学研究科 助教
提供資料
特許ライセンスの概要
京都大学はこのたび工学研究科が開発した技術をオーストラリアの有機ケイ素化合物メーカー、Advanced Molecular Technologies Pty Ltd (AMT) にライセンス供与する契約を締結した。
同技術は、工学研究科材料化学専攻の檜山爲次郎教授、中尾佳亮助教らの研究グループが開発したもので、医・農薬品の中間体や液晶等の原料の安価な合成法への適用が期待されている技術である。本技術は毒性が低く入手容易な有機ケイ素化合物をパラジウムなどの触媒により有機ハロゲン化物とクロスカップリングさせて合成するもので、環境にやさしい有機合成法としても注目されている。
AMT社は10月よりまず試薬ベースで本有機ケイ素反応剤のサンプル出荷を開始する予定。AMT社は現在、日米に販売チャンネルを持っており、日本では重松貿易株式会社を通じて独占的に販売される。すでに大手製薬メーカーなどから引き合いがあり、今後いろいろな医薬中間体の合成ルートとしての評価が始まる。また液晶材料の合成などへの利用も期待されている。
今回のライセンス供与契約は産官学連携センターが推進する、大学技術の産業界への技術移転の一環として成立したもの。産官学連携センターでは特にここ1年は日本国内だけではなく国際的な事業にも積極的に取り組んできており、今回の契約成立はその成果のひとつである。
(補足資料) ライセンス対象となる京大技術の特徴
「ライセンス供与された技術」
有機ケイ素化合物をパラジウムなどの触媒により有機ハロゲン化物とクロスカップリングする上記の合成方法はこれまでにも檜山クロスカップリング反応としてよく知られていたが、有機ケイ素化合物の安定性や、フッ化物の併用の必要性などに問題があった。檜山教授、中尾佳亮助教らは、ケイ素上に分子内活性化に供することができる水酸基を有する反応剤を用いることで、従来に比べてきわめて穏和な条件下でクロスカップリング反応をおこなうことに成功した。このケイ素反応剤は反応後回収・再利用をおこなうことでき、またケイ素上をすべて有機基で置換しているため極めて安定で長期保存が可能である。
従来、医薬品の中間体や液晶等の原料として用いるビアリール系化合物の合成には有機ボロン酸と有機ハロゲン化物とをパラジウムなどの触媒によりカップリングさせる反応がよく知られており、実用的にも利用されていたが、量産化には副生するホウ酸塩の処理などに課題が残っていた。檜山教授らが発明したビアリールの合成方法は穏和な条件で反応をおこなうことができ、またケイ素反応剤が再利用できる点で環境にもやさしく、経済的である。さらに有機ボロン化合物を用いるカップリング反応では合成できない化合物でも檜山教授らが開発した有機ケイ素化合物を使えば合成できるものが多々あり、本技術の医薬中間体や液晶の材料製造への幅広い応用が期待されている。
【用語説明】
- クロスカップリング反応
カップリング反応とは2つの化学物質を選択的に結合させる反応のこと。とくにそれぞれの物質が比較的大きな構造(ユニット)をもっているときに用いられることが多い。2つのユニットの構造が同じ場合はホモカップリング、異なる場合はクロスカップリング(またはヘテロカップリング)という。近年はとくに触媒量の遷移金属化合物存在下で有機金属化合物あるいは不飽和化合物が、有機ハロゲン化物と縮合するカップリング反応がいろいろと知られてきており、天然物合成などで多用される。