2014年2月14日
藤田尚志 ウイルス研究所教授、加藤博己 同准教授らの研究グループと、野田哲生 理化学研究所チームリーダーらの研究開発チームとの共同研究により、世界に先駆けて自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)の原因遺伝子の一つを発見しました。
この成果が、2014年2月13日正午(米国東部時間)に米国科学誌「Immunity」に掲載されました。
左から藤田教授、加藤准教授、船曳正英 医学研究科博士課程大学院生
今回の研究成果は、SLEなどヒトにおける自己免疫疾患の発症機序の解明に貢献することが期待できます。
今後は、獲得したマウスをより詳細に解析することで、SLEの発症機序の解明に繋げ、予防、診断、治療法の確立を目指します。さらに、さまざまな薬剤を用いて、SLEの症状(特に腎臓における炎症)が抑えられるかを検討していきます。
また、私たちがウイルスセンサーとして注目してきたMDA5の異常活性が、SLE以外の自己免疫疾患の原因であるかを検討することも重要な課題と考えています。
概要
全身性エリテマトーデス(SLE)は、細胞の核成分に対する抗体(抗核抗体、抗dsDNA抗体)を中心とした自己抗体(自分の体の成分と反応する抗体)が作られ、全身の諸臓器が侵されてしまう自己免疫疾患の一つです。
同研究室はこれまで、ウイルスセンサーであるRIG-IおよびMDA5を世界に先駆けて発見し、これらのウイルスセンサーがどのようにウイルスの侵入を認識し、抗ウイルス応答を惹起するかについて研究してきました。そのような中、理化学研究所の野田グループが、SLE様の症状を自然発症するマウスを獲得し(下図)、さらにそのマウスでは、ウイルスセンサーMDA5に変異があることが判明しました。そこで本研究グループは、なぜMDA5における変異がSLE様の症状を引き起こすかを解明するために、理化学研究所との共同研究でそのマウスの病態の詳細な解析を行いました。
これらの解析により、この変異マウスにおいて、普段はウイルス感染無しには活性化しないMDA5が恒常的に活性型となり、常に抗ウイルス応答を引き起こしている状態であることが明らかとなりました。さらに、樹状細胞やマクロファージといった免疫細胞の活性化が病態形成の主因となっている可能性を示唆することができました。
マウスの個体写真。右が野生型、左が変異マウス(6週齢)
変異マウスは、脾臓の肥大が認められ、腎臓や皮膚の炎症もみられる。また、体が小さく、生後2ヶ月程度から死に始める。基本的に生殖能力が無い。
詳しい研究内容について
自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)の原因遺伝子の一つを発見 -SLEの発症機構の解明や治療法の開発に期待-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2013.12.014
Masahide Funabiki, Hiroki Kato, Yoshiki Miyachi, Hideaki Toki, Hiromi Motegi, Maki Inoue,Osamu Minowa, Aiko Yoshida, Katashi Deguchi, Hiroshi Sato, Sadayoshi Ito, Toshihiko Shiroishi, Kunio Takeyasu, Tetsuo Noda, Takashi Fujita
"Autoimmune Disorders Associated with Gain of Function of the Intracellular Sensor MDA5"
Immunity 40, 1–14, February 20, 2014
掲載情報
- 朝日新聞(2月14日 7面)、京都新聞(2月15日 27面)、日刊工業新聞(2月19日 21面)および読売新聞(2月15日夕刊 7面)に掲載されました。