抗体分子の構造・機能の直接可視化と6量体・2次元結晶形成の発見 -液中原子間力顕微鏡による高分解能イメージング-

抗体分子の構造・機能の直接可視化と6量体・2次元結晶形成の発見 -液中原子間力顕微鏡による高分解能イメージング-

2014年1月20日


左から山田准教授、小林特定准教授

 山田啓文 工学研究科准教授、小林圭 同特定准教授(白眉センター所属)らの研究グループは、パナソニック株式会社R&D本部と共同して、液中動作可能な周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を用い、マウス由来の抗体(IgG抗体)を直接観察し、抗体分子の微細構造を溶液環境下で非破壊観察することに世界で初めて成功するとともに、この抗体が抗体認識(免疫)機能を有したまま6量体構造を形成することを新たに見出しました。さらに、この6量体は2次元状(平面状)に規則的に配列した結晶を形成することも発見しました。

 本成果は、英国時間1月19日発行の英国科学誌「Nature Materials」電子版に掲載されました。

概要

 抗体分子は、体内に侵入した細菌・ウイルスなどの病原体の特定の部位、アレルゲンなどの特定の外来物質など、いわゆる抗原を認識して結合し、免疫反応における中心的な役割を担っています。

 抗体分子はY字型の構造をしており、Y字の上半分に当たる二つのアーム(Fabフラグメント)が抗原と結合する部位であり、残る下半分の部位(Fcフラグメント)と、細く柔らかい分子の鎖(ヒンジ)で結ばれています(図1(a))。また、各フラグメントは、タンパク質ドメインと呼ばれる領域から構成されています。今回、マイカ(白雲母)基板上に吸着させた抗体分子を溶液中でFM-AFM観察することで、従来のAFM観察より圧倒的に高い分解能で観察することに成功し、Fabフラグメント中の二つのタンパク質ドメインを明瞭に観察することができました(図1(b)参照)。


図1:(a)IgG抗体のモデル(b)IgG分子単体のFM-AFM像とシミュレーション結果(c)FM-AFM観察により発見されたIgG分子の6量体(d)IgG抗体6量体の分子モデル

 溶液条件を変えて観察したところ、六つの抗体分子のFcフラグメントが環状に集合し、会合体(6量体)を形成することを発見しました(図1(c)および図1(d)参照)。さらに、この6量体はマイカ基板上で自ら規則的に配列し、2次元結晶を形成することも新たに分かりました(図2参照)。


図2:(a)FM-AFM観察により発見されたIgG抗体6量体の2次元結晶(b)高解像度FM-AFM像(c)IgG抗体分子6量体の2次元結晶のモデル

 この2次元結晶には、特定の抗原分子だけが強く結合することが分かり、抗体分子が平面場で結晶化した状態であっても抗原認識(免疫)機能をもつことが示されました。

今後の期待

 本研究成果は、抗原と抗体が特異的に結合するメカニズムを分子レベルで明らかにする生化学的研究の足がかりとなるとともに、抗体分子が非常に高い密度で均等に配列した表面を作製できることから、高感度に抗原を検出するバイオセンサの開発につながることが期待されます。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nmat3847

Shinichiro Ido, Hirokazu Kimiya, Kei Kobayashi, Hiroaki Kominami, Kazumi Matsushige & Hirofumi Yamada
"Immunoactive two-dimensional self-assembly of monoclonal antibodies in aqueous solution revealed by atomic force microscopy"
Nature Materials Published online 19 January 2014

 

  • 朝日新聞(1月20日夕刊 13面)、京都新聞(1月20日 30面)、日刊工業新聞(1月20日 17面)および読売新聞(1月20日 39面)に掲載されました。