直前数日間の日照時間が少ないほど鉄道自殺の危険性が高いことが明らかに -鉄道自殺の予防に期待-

直前数日間の日照時間が少ないほど鉄道自殺の危険性が高いことが明らかに -鉄道自殺の予防に期待-

2013年9月25日

 寒水孝司 医学研究科准教授、角谷寛 滋賀医科大学医学部附属病院特任教授(京都大学医学研究科 元准教授)らの研究グループは、直前数日間の日照時間の少なさが鉄道自殺に関係することを示しました。

 本研究成果は、精神科の国際専門誌「Journal of Affective Disorders」(2013年9月13日)に掲載されました。

概要

 自殺と天候については、春に多いなど季節性についての報告がありますが、必ずしもその結果は一定していません。そこで、鉄道自殺と日照時間の関係を解析したところ、鉄道自殺の直前3日間あるいは7日間の日照が少ないほど鉄道自殺の危険が高いことが示されました。

背景

 首都圏の鉄道の運休や遅れの半数以上が自殺に起因し、鉄道自殺は人命の損失のみならず、社会経済的にも大きな損失(首都圏で1件あたり平均8,900万円(「鉄道利用者等の理解促進による安全性向上に関する調査(2010年3月 国土交通省鉄道局)」による))をもたらしています。自殺と天候については、春に多いなど季節性についての報告がありますが、必ずしもその結果は一定していません。季節性感情障害はうつ病の一病型であり、高照度の白色光を一定時間以上目視する高照度光療法が最も効果的治療法です。季節性感情障害は高照度光療法により数日間で改善し、治療をやめると1週間以内に再発が多く認められます。また、高照度光療法は、季節性感情障害以外のうつ病にも治療効果があります。そこで、直前数日間の日照時間が少ないことが自殺の危険性を高めるとの仮説を立て、鉄道自殺と日照時間の関係を解析しました。

研究手法・成果

 自殺のデータは、鉄道総合技術研究所の「鉄道安全データベース」のデータを用いました。このデータベースは、30分以上の遅延または運休をすべて集めたもので、2002年1月1日から2006年12月31日の5年間について、「自殺」をキーワードとして検索し、自殺企図(自殺をくわだてること)により輸送障害(運休または30分以上の遅れ)が生じたものについて解析しました。

 天候のデータは、気象庁の「過去の気象データ検索」の日照時間(直達日射量が0.12キロワット/m2以上の直射日光が地表を照射した時間)のデータを用いました。対象地区として、東京都、神奈川県、大阪府を選択しました。その理由はこの都道府県における鉄道自殺がもっとも多く(3都道府県で全国の34.9%)、都道府県の面積が比較的小さいためです。

 鉄道自殺の前3日間および7日間について解析すると、日照時間が1時間以上の日数が多いほど、自殺企図のあった日の割合が少ないことが示されました(線形確率モデルの傾きのp値はそれぞれp=0.0888およびp=0.0243でした(図のA、B))。一方で、自殺企図の当日、当月、あるいは前月の日照時間については、鉄道自殺との明らかな関係は認められませんでした。

 このことは、鉄道による自殺企図は当日ではなく、前数日間の天候によって影響されることを示唆しています。

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図: 線形確率モデルによる解析

日本の3都道府県(東京都、神奈川県、大阪府)の2002年から2006年の5年間における日照時間と鉄道自殺企図のあった日(件数)の割合。解析対象のデータ数は3地域×1,826日(5年間)=5,478件。図中の横軸の上の数値は該当する件数を表わし、すべて合計すると5,478件になる。破線は線形確率モデルのあてはめ値を表わす。

波及効果

 鉄道自殺の可能性の高い日が予想できると、駅や踏切等の効率的な巡回が可能となります。さらに、ホームや車両内に高照度白色光や青色光を、数日間日照が少ない日に照射することで鉄道自殺を予防できる可能性があります。

本研究は、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費(23-3)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 23591672の支援を受けてなされました。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.jad.2013.08.040

Hiroshi Kadotani, Yumiko Nagai, Takashi Sozu.
Railway suicide attempts are associated with amount of sunlight in recent days
Journal of Affective Disorders. In Press, Accepted Manuscript,Published September 13,2013.

 

  • 京都新聞(9月26日 28面)、日刊工業新聞(9月26日 25面)および毎日新聞(9月26日夕刊 2面)に掲載されました。