関節リウマチから新たなヘルパーT細胞を同定 -慢性炎症のメカニズム解明に期待-

関節リウマチから新たなヘルパーT細胞を同定 -慢性炎症のメカニズム解明に期待-

2013年9月20日

 吉富啓之 医学研究科特定准教授(次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点)と小林志緒 同研究員らの研究グループは、松田秀一 同教授(整形外科学講座)と伊藤壽一 同教授(耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座)と協力して、関節リウマチの関節炎に存在する新たな種類のヘルパーT細胞を同定しました。この細胞は炎症の存在する場所に他のリンパ球を集めることで炎症の持続にかかわっていると考えられます。

 本研究成果は、2013年9月10日15時(アメリカ東部時間)に米国リウマチ学会誌「Arthritis & Rheumatism」のオンライン速報版で公開されました。

概要

 これまでT細胞が関節リウマチに関係していることは知られていましたが、どのようにかかわっているのか十分には分かっていませんでした。本研究グループは関節リウマチの関節炎組織中に、これまで知られていたT細胞と異なった種類のヘルパーT細胞が存在することを明らかにしました。このT細胞はCXCL13というタンパク質を作ることで他のリンパ球を集め、炎症の持続に関わっていると考えられます。

ポイント

  • 関節リウマチの関節炎に存在するCXCL13を産生するT細胞が新たな種類のヘルパーT細胞であることを発見
  • 炎症サイトカイン(TNFαおよびIL-6)がCXCL13の持続的な産生やCXCL13を産生するT細胞の誘導に関与することから、この細胞を炎症性CXCL13産生T細胞(iTh13細胞)と命名
  • 慢性炎症のメカニズム解明に貢献

背景と経緯

 関節リウマチは炎症性サイトカインを抑える治療により飛躍的に治療成績が改善しましたが、これらの治療が十分に効かない患者さんも存在します。関節リウマチの病態がまだ十分に分かっていないことがその原因と考えられます。関節リウマチの病態にはT細胞も関係していることがさまざまな研究により知られていましたが、どのようにかかわっているのかは十分に分かっていませんでした。動物モデルの研究ではTh1細胞やTh17細胞等のヘルパーT細胞が関節炎に関係していると考えられていましたが、関節リウマチの患者さんの病態はこれらの細胞群だけでは十分に説明できず、本研究では別の種類のT細胞が存在し、関節リウマチに関わっているのではないかと考え、研究を行いました。

研究の内容

 関節リウマチは滑膜組織が増大することで関節の軟骨や骨が変性に至ります。リウマチ滑膜組織にはリンパ球が集まるリンパ濾胞という構造が認められるため、リンパ濾胞の形成に関係するCXCL13の発現を確認したところ、従来はリンパ球ではなく間葉系細胞が作るとされたCXCL13が、リウマチ滑膜組織では主にヘルパーT細胞から産生されていることが分かりました。

 次に、これまで知られていたヘルパーT細胞であるTh1、Th2、Th17、TregおよびTfhとCXCL13産生T細胞との関係を調べたところ、どの細胞群とも異なる新たな種類のヘルパーT細胞であることが分かりました(図1)。


図1:さまざまなヘルパーT細胞。iTh13細胞はこれまで知られているヘルパーT細胞であるTh1、Th2、Th17、TfhおよびTregと異なる性質をもつ新たな細胞集団であった。

 また炎症性サイトカイン(TNFαおよびIL-6)がCXCL13の持続的な産生やCXCL13産生ヘルパーT細胞の分化に関与していました。このことから新たな細胞群を炎症性CXCL13産生ヘルパーT(iTh13)細胞と名付けました。iTh13細胞は何らかの炎症が生じた時に、炎症局所に誘導されCXCL13を持続的に産生することで他のリンパ球を集めてリンパ濾胞をその場に作る役割があると考えています(図2)。


図2:iTh13細胞の働き。iTh13細胞は炎症部位で誘導され(左)、CXCL13により他のリンパ球を集めて(中央)、リンパ濾胞を炎症部位に形成する(右)働きを持つと考えられる。

今後の展開

 今回の発見はヒトのヘルパーT細胞に新たな種類のものが存在することを示した重要な発見です。関節リウマチだけでなく他の慢性炎症疾患や癌などにおいてもiTh13細胞が重要な役割をはたすと考えています。iTh13細胞がどのように働くのかを明らかにすることで、免疫学の進歩だけでなくさまざまな疾患の新たな治療につながると考えています。

本研究は、厚生科学研究費補助金難治性疾患等克服研究事業(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究事業)により実施された「ヒト関節リウマチ特異的CD4陽性細胞および血漿・関節液miRNAの同定と治療・診断への応用」と文部科学省先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラムの支援を受けてなされました。

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1002/art.38173

Shio Kobayashi, Koichi Murata, Hideyuki Shibuya, Mami Morita, Masahiro Ishikawa, Moritoshi Furu, Hiromu Ito, Juichi Ito, Shuichi Matsuda, Takeshi Watanabe, Hiroyuki Yoshitomi.
A distinct human CD4+ T cell subset that secretes CXCL13 in rheumatoid synovium
Arthritis & Rheumatism online 10 SEP 2013. DOI: 10.1002/art.38173

 

  • 京都新聞(9月25日 23面)および日刊工業新聞(10月3日 17面)に掲載されました。