単純な金属を磁気センサーに応用できる新メカニズムの発見

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用語解説

単純金属

ここでは、物質の化学組成ではなく電気的性質に着目して、電流をよく流す物質を「金属」と呼んでいます。特に、伝導電子の状態が簡単なものを単純金属と呼びます。例えば、金・銀・銅やナトリウムなどは典型的な単純金属です。PdCoO2もシンプルで2次元的な電子状態を持つ単純金属に分類できます。

パラジウム(Pd)

原子番号46の元素。元素周期表でプラチナ(白金)の上に位置しており、プラチナと似た性質を持っています。宝飾品や触媒に利用されているほか、多量の水素を吸収することでも知られています。PdCoO2では、パラジウムの電子が電気伝導性を担っています。

コバルト(Co)

原子番号27の元素。元素周期表では鉄とニッケルに挟まれた位置にあり、これらの元素と同様、磁気的な性質をもちやすい傾向にある元素です。実際、単体では、鉄やニッケルと同様、コバルトも磁石につく性質(強磁性)をもちます。しかし、PdCoO2内ではコバルト原子はプラス3価のイオンになって酸素の八面体に囲まれており、磁気的な性質は消えてしまっています。

磁気抵抗効果(Magnetoresistance)

磁場によって物質の電気抵抗が変化すること。主に、物質の磁気的な性質と伝導電子の相互作用によって生じます。また、伝導電子が磁場から受ける力(ローレンツ力)によっても磁気抵抗効果は生じますが、ローレンツ力による磁気抵抗効果は弱いものしか知られていませんでした。

巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistance; GMR)

磁性体の人工多層膜において実現する巨大な磁気抵抗効果。室温において数十%以上の大きな磁気抵抗の変化率が実現するため、コンピューターのハードディスクの磁気ヘッドなどに広く利用されています。その基礎科学・応用両面での重要性から、GMRの発見は2007年のノーベル物理学賞にも選ばれました。

ローレンツ力

磁場中で運動する荷電粒子が受ける力。ローレンツ力Fは、電荷qを持つ粒子の速度vと磁束密度B(真空中では磁場Hに比例)のベクトル積Fqv×B)で表すことができます。つまり、荷電粒子は、速度と磁束密度の両方に垂直な方向に力を受けることになります。この関係は「フレミングの左手の法則」として良く知られています。

ケルビン(K)

絶対温度の単位。摂氏-273.15度がゼロケルビンに対応し、1ケルビンの温度差が1度の温度差と等しくなるように定義されています。

テスラ(T)

磁束密度の単位ですが、磁場の大きさを表すのにもよく使われます。例えば、地磁気の大きさは約0.00005テスラ(50マイクロテスラ)、文房具にも使われるネオジム磁石の磁束密度は大体0.1から0.5テスラ程度です。これらと比べると、14テスラという磁場はだいぶ大きく感じられるかもしれませんが、超伝導コイルを利用した電磁石を用いることで、大学の実験室等でも比較的容易に到達可能な磁場です。

フェルミ面

伝導電子の状態や振る舞いを記述する面。より正確には、導電体の波数空間内で電子によって占められた部分の表面をフェルミ面と呼びます。多くの物質ではフェルミ面は複雑な形状をしていますが、単純金属では球に近い形などの簡単な形をしています。PdCoO2の場合は、シンプルな六角柱状の形をしています(図3挿入図)。このように単純な形のフェルミ面を持っているという意味でも、PdCoO2は単純金属であるといえます。