TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を用いた効率的な遺伝子改変ラットの作製技術

TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を用いた効率的な遺伝子改変ラットの作製技術

2013年2月13日


真下特定准教授、金子特定講師

 真下知士(ましも ともじ) 医学研究科附属動物実験施設特定准教授、金子武人 同特定講師らの研究グループは、山本卓 広島大学教授らとの共同研究により、人工酵素TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を作製し、TALENを使ってノックアウトラットを作製することに成功しました。さらに、DNA鎖の5'末端から分解する酵素エキソヌクレアーゼ(Exo1)をTALENと一緒にラット受精卵に導入することで、遺伝子改変効率を約5倍高めることに成功しました。今回開発された「人工ヌクレアーゼTALENを用いた効率的な遺伝子改変動物の作製技術」は、マウスやラット、その他の様々な動植物に利用することができます。今後、このゲノム編集技術により多数の遺伝子改変動物が作製されることで、先進的医学研究・創薬研究・再生医療研究などの発展に大きな貢献ができると期待されています。

 本研究成果は、2月13日付けのNature Publishing Group(NPG)オープンアクセス誌「Scientific Reports」に掲載されました。

本研究成果のポイント

  1. 広島大学との共同研究により、ラットチロシナーゼ(Tyr)遺伝子を標的とするTALENプラスミドを作製しました。Tyr遺伝子の欠損による色素欠乏症(アルビノ、白子症)は、ヒトを含む様々な動物で報告されています。
  2. 作製したTALENプラスミドを用いて、ラット線維芽細胞(Rat-1)でTyr遺伝子に突然変異を導入することができました。さらに、エキソヌクレアーゼ(Exo1)発現ベクターをTALENプラスミドと共導入すると、遺伝子変異率が向上しました。
  3. ラット受精卵でも、TALENとExo1を共導入することで、遺伝子変異率が向上しました。
  4. TALENとExo1 mRNAをラット受精卵にインジェクションすることで、TALENを利用したTyr遺伝子ノックアウトラット(アルビノラット)を作製することに成功しました。

本研究の成果(概要)

 遺伝子を破壊した動物(ノックアウト)を作製することで、遺伝子の機能を個体レベルで解析したり、ヒト病気の原因遺伝子に変異を有する疾患モデルとして利用することができます。研究グループは以前に、遺伝子改変技術として、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)という人工ヌクレアーゼをラット受精卵に導入することにより、Il2rgPrkdc遺伝子をノックアウトした免疫不全ラットを作製しました(Mashimo PLoS ONE 2010, Mashimo Cell Reports 2012)。ZFN技術は、従来のES細胞を用いた遺伝子改変技術に比べて、短期間で、効率的に、様々な動物種(系統)に利用できる技術として注目されています。しかしながら、ZFN自体は自分達で作製することが難しく、多くの研究者が販売業者から購入しています。

 近年、Transcription Activator-Like Effector Nuclease(TALEN)というZFN同様の遺伝子改変技術が注目を集めています。植物の病原細菌であるXanthomonas(キサントモナス)から発見されたDNA結合蛋白TALEとDNA切断ドメインFokIを融合させた人工酵素であり、短期間でTALENプラスミドが作製できる点、標的DNA配列を自由に変更できる点など、ZFNよりも利便性の高い技術と言われています。

 本研究では、ラット遺伝子を標的としたTALENを自分達の研究室で作製して、作製したTALENをラット受精卵に導入することにより、ノックアウトラットの作製を行いました。

1)TALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)の作製

 広島大学山本卓教授らとの共同研究により、ラットチロシナーゼ(Tyr)遺伝子を標的とするTALENプラスミドを作製しました(図1)。Tyrは、メラニン色素の合成に関わる遺伝子で、動物では遺伝子が変異あるいは欠損すると体毛や皮膚が白くなる色素欠乏症、いわゆるアルビノになります。


図1:ラットチロシナーゼ(Tyr)遺伝子を標的としたTALエフェクターヌクレアーゼ(TALEN)

2)ラット線維芽細胞株Rat-1における遺伝子変異の導入

 ラット線維芽細胞(Rat-1)に作製したTALENプラスミドをエレクトロポレーション法により導入することで、Rat-1細胞内のTyr遺伝子に数~数十bpの遺伝子変異を導入することができました(図2)。エキソヌクレアーゼ(Exo1)発現ベクターをTALENプラスミドと共導入すると、遺伝子変異率が上昇しました。


図2:(A)ラット線維芽細胞(Rat-1)とGFPを導入したRat-1細胞(B)Surveyor(Cel-1)ヌクレアーゼアッセイ法により確認された遺伝子変異、Exo1共発現により遺伝子変異導入率が上昇(C、D)シークエンス法により確認された遺伝子変異

3)ラット受精卵における遺伝子変異の導入

 ラット受精卵にTALENとExo1 mRNAをマイクロインジェクションにより導入して、2細胞期胚からDNAを抽出して遺伝子変異を確認しました(図3)。TALEN単独の場合(5.6%)と比べて、Exo1はラット受精卵でもTALENによる遺伝子変異導入率(28.6%)を上昇しました。


図3:ラット受精卵へマイクロインジェクション法によりTALENを導入(左)、Surveyorアッセイにより確認された遺伝子変異(右)

4)TALENによるノックアウトラットの作製

 TALENとExo1をラット受精卵を共導入して、Tyr遺伝子ノックアウトラット(アルビノ)を効率的に作製することに成功しました(図4)。


図4:ラットTyr遺伝子を欠損して全身が真白になったアルビノラット(Tyrノックアウトラット)

今後の期待

 今回、広島大学との共同研究により、自分達で作製したTALENを利用することで、日本では初めてラットチロシナーゼ遺伝子を欠損したノックアウトラットを作製することに成功しました。エキソヌクレアーゼ(Exo1)をTALENと一緒にラット受精卵に導入することで、ラット細胞、あるいはラット受精卵で遺伝子変異効率を大幅に上昇させることができました。従来の遺伝子改変マウス・ラットを作製する際に利用されるES細胞技術と比べても、今回の技術は非常に効率的な技術であるといえます。また、マウス、ラットだけでなく、ウサギ、ブタ、ウシ、サルなどの中大動物にも利用できるため、今後、実験動物や家畜におけるゲノム編集技術が大きく発展すると期待します。

掲載論文

雑誌名

Scientific Reports(NPGオープンアクセス誌)
http://www.nature.com/srep/index.html

掲載誌名

Scientific Reports 3, Article number: 1253

論文名

Efficient gene targeting by TAL effector nucleases coinjected with exonucleases in zygotes
TALエフェクターヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼの共導入による受精卵での効果的遺伝子改変

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep01253
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/169765

著者名

Tomoji Mashimo1*, Takehito Kaneko1, Tetsushi Sakuma2, Junya Kobayashi3, Yayoi Kunihiro1, Birger Voigt1, Takashi Yamamoto2, Tadao Serikawa1
真下 知士1、金子 武人1、佐久間 哲史2、小林 純也3、国広 弥生1、Voigt Birger1、山本 卓2、芹川 忠夫1

著者所属機関名

1 Institute of Laboratory Animals, Graduate School of Medicine, Kyoto University
2 Department of Mathematical and Life Sciences, Graduate School of Science, Hiroshima University
3 Genome Repair Dynamics, Radiation Biology Center, Kyoto University
1 医学研究科附属動物実験施設
2 広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻
3 放射線生物研究センターゲノム動態研究部門

 

  • 京都新聞(2月14日 23面)および日刊工業新聞(2月15日 20面)に掲載されました。