自動車用樹脂の強度と寸法安定性が大幅に向上 ~CNFを用いた樹脂部材、実用化へ~

自動車用樹脂の強度と寸法安定性が大幅に向上 ~CNFを用いた樹脂部材、実用化へ~

2012年9月12日

 矢野浩之 生存圏研究所教授らは、製紙用パルプに含まれる植物由来の再生可能資源で、軽量・高強度の特徴をもつセルロースナノファイバー(CNF)を樹脂中に均一分散させることで、樹脂の強度を従来の3~4倍に、熱による寸法変化を2割程度にまで抑える技術を開発しました。自動車重量の約9%(約110kg)を占める樹脂部材を今回開発したCNF強化樹脂に置き換えることで、樹脂の使用量を減らすことができ、20kg程度の軽量化が可能となります。これにより自動車の燃費向上で化石資源への依存度低下に寄与することが期待されます。

1.背景

 自動車では燃費の向上のため、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)といった軽量樹脂を使用することが進んでいます。 しかしこれらの樹脂は強度が低いうえ熱膨張が大きく、適用部位の拡大には限界があります。そのため、身近な紙やパルプをナノ解繊して得られるセルロースナノファイバー(CNF)を樹脂と複合化する技術の開発が進められています。このCNF(図1)は、すべての植物細胞の基本物質で、地球上で最も多く存在する天然高分子で再生可能資源であり、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の強度と、熱による伸び縮み(線熱膨張)がガラスの1/50と優れた特性を有するナノ繊維ですが、表面が親水性のため、自動車用樹脂とのなじみ(相溶性)が悪く、これまで複合化が難しいとされてきました。


図1:木材から単離した幅15nmのセルロースナノファイバー

2.今回の成果

植物由来ナノファイバーにより自動車用樹脂の強度、寸法安定性を大幅に向上

 今回、CNFと自動車用樹脂との相溶性を大幅に改善し、樹脂中にCNFを均一に分散させることを可能とする表面修飾技術(疎水化処理)を開発しました。さらに、この疎水化処理をナノ解繊前の製紙用パルプに行い、溶融した樹脂と混合することで、パルプのナノファイバー化と樹脂中への均一ナノ分散を同時に達成することに成功しました。

 開発した疎水化CNFで複合化したPPやPE、ポリアミド(PA)では、射出成形を行うと、樹脂中に均一分散したCNFにより樹脂の結晶が一方向に並び(配向)ます(図2)。その結果、樹脂中に10~15%のCNF添加で、樹脂の強さは3~4倍にまで向上し(図3)、線熱膨張も2割程度にまで大きく抑えることに成功しました(図4)。これにより自動車重量の約9%(約110kg)を占める樹脂部材をCNF強化樹脂に置き換えることで20kg程度軽量化が可能となり、自動車の燃費を向上させることが期待されます。


図2:セルロースナノファイバー添加によるPE結晶の配向

図3:セルロースナノファイバー強化による材料強度の向上

図4:セルロースナノファイバー強化による線熱膨張の低減

3.今後の予定

 本材料は、今後、自動車用部材にとどまらず、家電、住宅、包装・容器等に用いられる樹脂部品への幅広い展開が可能です。自動車メーカーや機械メーカーと連携しながら生産技術の開発等に取り組んで行きます。

 これらの成果は、2012年9月19日(水曜日)から21日(金曜日)まで名古屋工業大学において高分子学会が主催する「第61回高分子討論会」および2012年10月15日(月曜日)に京都市にて本学等が主催する国際シンポジウム"Nanocellulose Summit 2012(ナノセルロースサミット 2012)"においても発表します。

この技術開発は、本学、京都市産業技術研究所、王子製紙株式会社、三菱化学株式会社、DIC株式会社(星光PMC株式会社を含む)が、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託を受けた「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発」の成果です。

用語解説

ナノ解繊

パルプを機械的手法で構成要素であるセルロースナノファイバーのレベルにまで解すこと。

グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発

化学品に使用される石油由来原料について、植物由来原料への大幅な転換・多様化を可能とする技術を開発することを目的としたプロジェクト。(2010年度~2012年度)

  • 産経新聞(9月13日 26面)および日本経済新聞(9月13日 9面)に掲載されました。