放射能汚染物保管用に震災ガレキ再生コンクリ容器と超重量コンクリ容器を開発-福島県内の放射能汚染土を用いた実験で性能実証-

放射能汚染物保管用に震災ガレキ再生コンクリ容器と超重量コンクリ容器を開発-福島県内の放射能汚染土を用いた実験で性能実証-

2012年4月11日

 荒木慶一工学研究科准教授は、パリーク・サンジェイ 日本大学工学部准教授、藤倉裕介 フジタ技術センター主任研究員らとともに、一般社団法人構造技術研究会遮蔽コンクリートポッド研究委員会(委員会メンバー:表1)を立ち上げ、東京電力福島第一原発事故で発生した放射性物質で汚染された土砂や廃棄物を格納するために、2種類のコンクリート(以下、コンクリ)容器を新たに開発し、福島県郡山市内の汚染土を用いた実証実験を行い、想定通りの性能が得られることを実証しました。また本実験の結果に基づき、放射線量低減効果のシミュレーションシステムを開発しました。これにより、土砂や廃棄物の汚染状態に応じて、最適な容器の材料や厚さを選択することが可能になりました。

 今回開発したのは、震災で発生したガレキを再生したコンクリ(再生コンクリ)を用いた容器と、通常の2倍以上の比重を持つコンクリ(超重量コンクリ)を用いた容器の2種類です。再生コンクリ容器は、東日本大震災で大量発生したガレキの中でも大きなウエイトを占めるコンクリガラの再利用技術として期待されます。また超重量コンクリ容器の開発により、従来の普通コンクリ容器と比較して大幅な省スペース化と重量低減を実現しました。

 このようなコンクリ容器の開発、現地汚染土を用いた実証実験、シミュレーションシステムの開発は、国内外で初の試みです。

表1 委員会メンバー

氏名 所属 専門 資格
委員長 荒木慶一 工学研究科 准教授 構造工学 博士(工学)
副委員長 パリーク・サンジエイ 日本大学工学部 准教授 コンクリート工学 博士(工学)
委員 李有震 工学研究科 講師 構造工学 博士(工学)
委員 鈴木裕介 工学研究科(元 日本大学工学部) 研究員 コンクリート工学 博士(工学)
委員 木村健一 K-Tech(元株式会社フジタ技術センター) 代表 原子力工学 博士(工学)、放射線取扱主任者(第1種)
委員 藤倉裕介 株式会社フジタ技術センター

主任研究員

コンクリート工学 博士(工学)、技術士(建設部門)

これまでの経緯

 昨年3月11日に発生した東日本大震災は我が国に大きな惨状をもたらしました。またその後、福島県で発生した原発災害は、現在でも多くの課題を残しています。このような中、荒木准教授は、パリーク・サンジェイ 日本大学工学部准教授、藤倉裕介 フジタ技術センター主任研究員らとともに研究委員会を昨年7月に立ち上げ、昨年10月には福島県郡山市の日本大学工学部においてシンポジウムを開催し、地域住民とのディスカッション、現地土砂の汚染度評価、コンクリ容器の開発を継続して実施してきました。

開発したコンクリ容器の特徴

再生コンクリ容器

 現在、我が国では東日本大震災で大量に発生したガレキ処理が大きな問題となっています。本研究委員会はガレキ処理の一助となることを目指して、ガレキの中でも大きなウエイトを占めるコンクリガラの再利用技術として、コンクリガラを粉砕してできる再生骨材を用いた再生コンクリ容器(写真1・右)を開発しました。

 今回、20cmの厚さを持つ再生コンクリ容器を試作し、現地の放射能汚染土を用いた実験により、従来の普通コンクリ容器と比較して遜色の無い放射線遮蔽効果を持つことを確認しました。本実験により、再生コンクリによる放射能汚染物格納容器の実現性を実証できたといえます。なお、本容器の作成に用いたコンクリガラは宮城県で発生したもので、放射性物質による汚染は確認されていません。

超重量コンクリ容器

 コンクリ容器を用いて放射能汚染物を運搬・保管する際には、容器の省スペース化と重量低減が課題となります。今回開発した超重量コンクリ(写真1・左)の比重は普通コンクリの約2倍で、容器の壁厚と重量を大幅に低減できることが大きな特徴です。また、環境上問題がある特殊金属や化学薬品を一切用いておらず、将来的なリサイクルが容易で、環境に優しい点も大きな特徴です。現地汚染土を用いた実験では、厚さ10cmの超重量コンクリ容器により、2倍の厚さを持つ普通コンクリ容器と同等の遮蔽性能を持つことを確認し、壁厚を5割、重量を3割削減できることを実証しました。

 一般に、材料の比重が高いほど放射線を遮る性能が高くなります。従来の重量コンクリ容器の比重は3.5程度が上限でした。比重に限界があるのは、比重を高くすると水やセメントと骨材(砂利)が分離してコンクリを打つのが難しくなるためです。今回開発した超重量コンクリ容器では、骨材として砂利の代わりに鉄粉を用い、その大きさや形を工夫することで、骨材の分離を防ぎ比重4.7という超重量コンクリ容器の実用化に成功しました。


写真1 再生コンクリ容器と超重量コンクリ容器

今後の展望

 今後は今回の研究開発成果を基に、汚染物の評価、コンクリ容器の設計・施工、格納後のモニタリングを連携して行える体制を構築し、地元住民の皆さんの安全と安心につなげていきたいと考えています。

参考資料(実験計画および実験結果)

 実証実験のセッティングの概要を図1に示す。汚染土を直径30cm高さ40cmの薄いプラスチック製容器に入れ、まず汚染土のみについて図1の要領で汚染土表面からの距離Lを変化させながら放射線量を計測した。次に、写真1に示す2種類のコンクリ容器内部に格納し、同様に距離Lを変化させて放射線量を測定し、遮蔽容器の遮蔽性能を評価した。

 採取した土砂からサンプリングを行い、Ge検出器を用いて測定した結果、セシウム134(Cs134)が31.4Bq/g、セシウム137(Cs137)が48Bq/gであった。なお、遮蔽容器内部に入れた土砂の重量は22.5kgであり、すなわち、セシウム134(Cs134)が31.4Bq/g×22500g=706500Bq、セシウム(Cs137)が48Bq/g×22500g=1080000Bqのガンマ線量を含む土砂である。

 放射線量の測定は3分間の放射線量(空間線量)(Sv)の積算値を5~10回程度測定し、その結果を平均して1時間(h)あたりの放射線量に換算した。測定結果を表2に示す。測定結果より、超重量コンクリ容器(直径φ=50cm、高さH=60cm、厚さt=10cm、重さ420kg)に土砂を格納することにより容器表面(汚染土表面からの距離Lが10cm)において1/17に放射線量が減少、再生コンクリ容器(直径φ=70cm、高さH=80cm、厚さt=20cm、重さ600kg)では同様に容器表面(汚染土表面からの距離Lが20cm)において1/11に放射線量が減少していることが分かる。

 次に、ガンマ線遮蔽の理論的な計算を行った。理論計算には、MCNPと呼ばれるモンテカルロ法の放射線解析コードを用いた。図2および図3に解析結果を示す。実験における実測値との比較では、再生コンクリの表面や遮蔽無しの場合の20、30cm(汚染土表面からの距離L)あたりは、比較的よく一致するが、線源に近づくにつれて解析値の方が低くなることが分かる。また、遮蔽がない汚染土のみの場合との比較で考えると、概ね一致(理論計算と実測の誤差が1割程度)していることが分かる。

 また、再生コンクリの厚さを10、30、40、50、60cm、超重量コンクリで20、30cmまで計算した結果も示す(側面方向および鉛直方向でそれぞれ汚染土表面からの距離)。この結果から、超重量コンクリは再生コンクリに比べて厚さが20cmの場合は27倍、30cmの場合は120倍の遮蔽能力があることが分かる。

表2 実験での放射線量の実測結果    単位:μSv/h

汚染土からの距離L(cm) 10 20 30
汚染土のみ(遮蔽無し) 3.15 1.71 1.07
超重量コンクリ容器(厚さt=10cm) 0.18 0.14 0.07
再生コンクリ容器(厚さt=20cm) - 0.15 0.09


図1 実証実験のセッティングの概要


図2 コンクリの厚さ(遮蔽無しの場合は距離)と線量の関係


図3 コンクリの厚さと遮蔽能力比のプロット


左より木村代表、李講師、荒木准教授、藤倉主任研究員、鈴木研究員

     

  • 京都新聞(4月12日 1面)、産経新聞(4月12日 24面)、日刊工業新聞(4月13日 20面)、日本経済新聞(4月12日 11面)、毎日新聞(4月12日 20面)および読売新聞(5月28日 13面)に掲載されました。