2011年2月11日
松岡教授
松岡雅雄 ウイルス研究所教授、佐藤賢文 同助教、坂口志文 再生医科学研究所教授の研究グループは、HTLV-1 bZIP factorが発がんと炎症を引き起こすことを明らかにし、PLoS Pathogens(オンライン版)に掲載されました。
研究の概要
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は、成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia: ATL)やHTLV-1脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy: HAM)の原因ウイルスである。HTLV-1感染者は、日本全国で約108万人存在しており、全世界では1000~2000万人が、このウイルスに感染していると予想されている。日本は世界最大の感染国である。毎年、約1000人がATLを発症していると推定されている。
HTLV-1はATLという、がんのみならずHAMなどの炎症性疾患の原因であるが、どのようにして異なる病態を引き起こしているかは不明であった。これまでHTLV-1がコードするTaxが、発がん・炎症の原因であると推定されてきたが、ATLでは、Taxは、しばしば発現できない変異・欠失を有している。一方、HTLV-1のマイナス鎖にコードされるHTLV-1 bZIP factor(HBZ)遺伝子は全てのATL症例で保存され発現している。しかし、これまでHBZが、がんを引き起こすかは不明であった。HBZを発現するトランスジェニックマウスを作製し観察したところ、トランスジェニックマウスでは、Tリンパ球のがんが高頻度に発生した。また炎症も引き起こした。今回の研究はHBZ遺伝子が発がんと炎症というHTLV-1によって引き起こされる疾患の責任遺伝子であることを示している。
免疫反応をコントロールする重要なリンパ球として制御性Tリンパ球が坂口教授らにより発見された。制御性Tリンパ球の異常は、感染症、自己免疫疾患、がんと関連する。Foxp3は制御性Tリンパ球で中心的な役割を担う分子である。これまでATLは、Foxp3を発現しており、制御性Tリンパ球の腫瘍であることが報告されていた。HBZトランスジェニックマウスでは、Foxp3陽性制御性Tリンパ球が著増していた。その機序としてHBZはFoxp3遺伝子の転写を誘導することを明らかにした。HBZが感染したリンパ球を制御性Tリンパ球へと変換して発がん・炎症という疾患を引き起こすことが示された。これは病原体のタンパク質が制御性Tリンパ球の分化に直接、影響を与えていることを示した初めての報告である。
本研究はHTLV-1が、どのような機構で発がん・炎症という異なる疾患を引き起こすかを明らかにしたものである。この研究は今後、ATLやHAMという難治性疾患の治療に繋がるものと期待される。
関連リンク
- 論文は、以下に掲載されております。
http://dx.doi.org/10.1371/journal.ppat.1001274
http://hdl.handle.net/2433/137213 (京都大学学術情報リポジトリ(KURENAI)) - 以下は論文の書誌情報です。
Satou Y, Yasunaga J, Zhao T, Yoshida M, Miyazato P, Takai K, Shimizu K, Ohshima K, Green PL, Ohkura N, Yamaguchi T, Ono M, Sakaguchi S, Matsuoka M. HTLV-1 bZIP Factor Induces T-Cell Lymphoma and Systemic Inflammation In Vivo. PLoS Pathogens 2011;7(2):e1001274.
- 朝日新聞(2月16日 33面)、京都新聞(2月16日 25面)、産経新聞(2月16日 20面)、日本経済新聞(2月17日夕刊 14面)、毎日新聞(2月16日 2面)および読売新聞(2月16日 33面)に掲載されました。