2009年7月10日
足立特定助教
足立幾磨 霊長類研究所 特定助教らの研究グループは、アカゲザルがヒト同様の顔知覚様式を持つことを明らかにしました。
この研究成果は、8月11日発行予定の米科学誌「Current Biology」誌19巻1-4ページに掲載されます。
研究成果の概要
ヒトは他者の顔を瞬時に識別することができる。その際、目鼻口といった個別の特徴ではなく、それら全体のバランスに着目していることが知られている。また、このような顔知覚は正立した顔に対してよりおこなわれることが報告されている。この最も良い例の一つが、サッチャー錯視と呼ばれるものである。図1のABの写真を見比べて、何がどう違うか一見しておわかりだろうか?それでは、次に写真を逆向きから見ていただきたい。Bはとても気持ち悪い顔に見えるのではないだろうか? 実は、Bの顔は目と口だけが顔のほかの部位に対し上下逆さまになっている。われわれヒトは正立した顔に対して、目鼻口の全体的なバランスに着目しているため、それが崩されたBのような顔写真はとてもグロテスクに見えるのだ。
図1 サッチャー錯視の例
本研究では、このサッチャー錯視をアカゲザルも知覚するのかを分析した。まず、ある同種他個体の写真を繰り返しみせた。すると、サルは徐々にその刺激に飽きて、写真をほとんどみなくなった。その後、その写真の目と口を他の部位に対し180度水平方向に回転したものをみせた(図2参照)。すると、顔が正立している場合には、アカゲザルはこの写真に対し再び興味を取り戻し、長い時間注視した。これは、写真の変化に気づいたためと考えられる。一方で、顔が倒立している場合には、このような注視時間の増加はみとめられなかった(図3)。この結果は、アカゲザルもまた、サッチャー錯視を知覚することを示しており、彼らがヒトと同様に正立顔については目鼻口の全体的なバランスに着目していることを意味する。
図2 手続きの流れ | 図3 結果 |
図4 もちいられた刺激
本研究により、アカゲザルがヒト同様の顔知覚様式を持つことがあきらかになった。ヒトとアカゲザルは約3000万年前に進化の道を分かったことから、ヒトの顔知覚様式の進化の起源が、少なくとも約3000万年前にまでさかのぼれることが示された。
本研究は、初めてヒト以外の霊長類がサッチャー錯視を知覚することを示したものである。
(補足)サッチャー視覚
この錯視は、英国の元首相マーガレット・サッチャーの顔写真を用いて初めて報告されたため、このようにサッチャー錯視と呼ばれている。
- 朝日新聞(7月11日 36面)、京都新聞(7月11日 1面)、産経新聞(7月11日 26面)、日刊工業新聞(7月13日 24面)、日本経済新聞(7月11日 38面)、毎日新聞(7月11日夕刊 8面)および読売新聞(7月11日 2面)に掲載されました。