交通シミュレーション・システムについて - 京都大学・日本IBM 共同研究成果 -

交通シミュレーション・システムについて - 京都大学・日本IBM 共同研究成果 -

2008年6月10日

 世界中で大都市圏の渋滞が大きな問題となってきているなか、京都大学と日本IBMでは、多様な運転者が複雑に関係し合う都市圏の大量な交通を詳細にシミュレートする交通シミュレーション・システムを共同で研究してきました。

未来の交通社会をシミュレーション

数百万台規模の多様で広範囲な都市交通をミクロに再現する交通シミュレータ

 京都大学(総長:尾池和夫、京都市左京区)と日本IBM(社長兼会長:大歳卓麻、NYSE:IBM)は、総務省戦略的情報通信研究開発推進制度委託事業において、数百万台もの車両が複雑に影響しあう大都市圏の広範囲な交通を車両一台一台の動きまでミクロにシミュレートする大規模マルチエージェント交通シミュレーションシステムを共同開発しました。この交通シミュレーションシステムを活用すると、様々なシナリオをもとに首都圏全域など広範囲の交通施策や都市計画を多面的に検証できるようになります。

 現在、世界中の自動車は2005年時点で約9億台と推定されていますが、BRICs諸国をはじめとする経済発展に牽引され、今後、特に都市部を中心に爆発的に増加していくと予測されています。このような外部環境の中、大都市圏における慢性的な交通渋滞による経済損失の解消や地球温暖化防止といった観点から、渋滞解消や温暖化ガス排出抑制のための交通施策、さらには将来の少子高齢化社会に向けた都市計画の実現が急務となってきています。将来にわたって持続可能な交通社会を実現していくためには、渋滞税の導入や集約型都市構造への転換、環境への配慮といった交通施策や都市計画を多面的かつ効率的に評価できるシステムが必要です。

 今回の共同研究開発では、人間の意志や多様な運転特性を持つ運転者が複雑に関係し合う都市圏の大規模な交通を詳細にシミュレートすることを目的としました。京都大学大学院情報学研究科石田・松原研究室が高齢者、若年者といった様々な運転者をモデル化するためのシステムを構築し、日本IBM東京基礎研究所が、その多様な運転行動モデルに基づく交通を大規模かつ高速にシミュレートするための大規模マルチエージェントシミュレーション環境「IBM Zonal Agent-based Simulation Environment」と大規模マルチエージェント交通シミュレータ「IBM Mega Traffic Simulator」を開発しました。

 新たに開発された交通シミュレータは、仮想空間におけるドライビングシミュレーション実験結果から抽出された複数の運転行動モデルや車両の属性を取り込み、道路ネットワークや交通規制の情報を基に数百万台規模の交通をミクロにシミュレートすることができます。2007年10月に、京都市で実施された社会実験「歩いて楽しいまちなか戦略」での交通量観測結果と、IBM Mega Traffic Simulatorのシミュレーション結果を比較したところ、IBM Mega Traffic Simulatorが良好な再現性を示すことが解りました。

 この交通シミュレータを活用すると、たとえば、新規施設の開設や通行規制など様々な事象がどのように広域な交通に影響を与えるか、そのために、どういった施策を実施すれば、渋滞の少ない、人にも環境にも優しい社会を実現できるかを多面的かつ効率的に検証できます。また、モデルに多様な属性を付加していくことで、例えば、自動車の二酸化炭素排出量を抑制するための交通規制の在り方とその際の都市全体における自動車二酸化炭素排出量、少子高齢化が進んだ10年後の交通状況など、様々なシナリオにおける交通状況をシミュレートすることが可能になります。

 実行基盤であるIBM Zonal Agent-based Simulation Environmentは、PCサーバーのプロセッサー一台あたり数十万から数百万のエージェント(一人一人の運転者のモデルを計算機上で扱う単位)を用いたマルチエージェントシミュレーション環境を提供します。また、並列計算機環境で複数の計算機を用いる事で、更に大規模なマルチエージェントシミュレーションが可能となります。この実行基盤上で交通シミュレータのほか、避難誘導シミュレータ、排出量取引市場シミュレータ、オークションシミュレータなどを稼働させることができます。

 本研究開発の一部は文部科学省先端研究施設共用イノベーション創出事業【産業戦略利用】先端的大規模計算シミュレーションプログラム利用サービスの一環として、京都大学学術情報メディアセンターのスーパーコンピュータシステムを利用して実施されました。また京都市「歩いて楽しいまちなか戦略」社会実験の交通シミュレーションは、京都市都市計画局交通政策室(現 歩くまち京都推進室)の協力により実施されました。

・IBMは、International Business Machines Corporationの米国およびその他の国における商標。
 他の会社名、製品名およびサービス名等はそれぞれ各社の商標です。

歩いて楽しいまちなか戦略

 京都市都市計画局交通政策室(現京都市都市計画局歩くまち京都推進室)が、2007年10月に、京都市で実際の車線を規制して実施された社会実験。市内有数の繁華街と京町家などの伝統的な町並みが共存する「歴史的都心地区」(四条通・河原町通・御池通・烏丸通に囲まれた地区)において、自動車中心から徒歩と公共交通優先の「歩いて楽しいまち」を実現することで、住民や買い物客・観光客が安心安全に暮らせ、まちの魅力を楽しめるまちづくりを目指す取り組み。

 詳細はこちらをご参照ください。
 http://www.city.kyoto.jp/tokei/trafficpolicy/machinaka/(外部リンク)

 【関連リンク】
 動画はこちらをご参照ください:
 http://www.ibm.com/jp/press/pressroom/koutu_simulator_short.wmv
 http://www.ibm.com/jp/press/pressroom/koutu_simulator_short.mov
 東京基礎研究所:
 http://www.trl.ibm.com/extfront.htm(外部リンク)

 

  • 科学新聞(6月20日 4面)および日刊工業新聞(6月11日 10面)に掲載されました。