平成25年度学部卒業式 式辞 (2014年3月25日)

第25代総長 松本 紘

松本総長 本日、ご来賓の沢田敏男 元総長、名誉教授、列席の理事、副学長、学部長、部局長をはじめとする教職員一同とともに、2,831名の皆さんに学士の学位を授与する運びとなりました。学士課程を無事修了され、学位を得られたことに深く敬意を表するとともに、篤くお慶びを申し上げます。併せて、今日の卒業式を迎えるまでご家族および関係者の皆様よりいただいた数々の厚いご支援に対し、大学として御礼申し上げます。 117年にわたる京都大学の歴史において、皆さんを含めた本学の卒業生の累計は196,900名となりました。

 さて、皆さんが入学された時にはひとりひとりが夢を抱いていたことと思います。その夢は人に拠って、大願成就を目指す極めて野心的なものから、具体的現実的なものまでさまざまであったかと思います。それを胸に本学の門をくぐり1年、2年経つにつれ、やがてその夢が段々と霞んだり、変形してきたこともあったでしょう。そしてそれぞれの夢は、新たな装いをまとったり、新しく生まれたりして、入学時とは大きく変わっていることでしょう。私は皆さんの夢の変容に対して、苦言を呈するつもりはありません。むしろそれこそが皆さんの成長そのものであり、その成長を大いに言祝ぐものです。それと同時に、入学時の皆さんの夢というものをここでもう一度思い返して、己を見直し、自分自身で今の夢に向けてcommence、すなわち始動する日が、今日の卒業式commencementであるということを心してほしいと思います。

 皆さんは京都大学において一定の学業を修められ、今日の卒業式に臨んでいます。高浜虚子に

「一を知って 二を知らぬなり 卒業す」

という俳句があります。皆さんには「一を知りて二を知らず」ということを脱し、さらに無知の知に目覚め、これからも止むことなく学び続けてほしいと思います。そのためには多彩なジャンルの本を読み、自分の専門分野のみならず、広い分野の知識を貪欲に吸収するように心がけてください。

 

学位授与の様子 さて、現在、我々はインターネットに容易にアクセスできる環境にどっぷりつかっています。そこでは単純な問題については、答え探しが、大きな努力も必要とされず、検索という形で容易にできます。いいかえると我々は安易な答え探しが可能な世の中に生きているといえます。一方、答え探しが容易にできない問題に直面する場合も多々あります。さてどうすればいいのでしょうか。本当に我々を悩ます問いは本来そのようなものです。その時には私たちは自分の頭で考えるしかありません。考えるとは一体どういうことでしょうか。私は、考えるということは、様々な事柄の可能性やつながりを新たに組み直し自分の頭の中で整理するということではないかと思っています。すなわち、問題を前に、頭の中にこれまで蓄積してきた知識や経験を組み替えることこそが、考えることの本質ではないかと思います。このプロセスは一種パラレルな処理です。一方、インターネットから入手できる情報は順に発見できるシリアルなものです。この違いが、いくらインターネットに向かっても、考えていることにならない最大の理由ではないでしょうか。インターネットのようにシリアルにひとつずつ情報が出てき、それが片付いたら、次、そして次という形式は物事を調べる時には非常に役立ちます。ある特定の事柄についての知識を得たいときにはとりわけそうです。一つずつ知識を積み上げていくということはそれ自身大変重要ですが、何か全く新しいことを考えようとすると、本来ばらばらに分類されていた異なる分野の知識を組み合わせるパラレルな処理が必要で、脳の中ではそのパラレル処理がニューロンとニューロンの繋がりということで行われています。それゆえ、色々なことを体験し、経験し、知識を蓄え、それを柔軟に組み合わせ、組み替え新しいものを創造する訓練を積む必要があるわけです。

 本日の卒業式で一つの区切りをつけ、考える習慣をつけ新しい夢を胸にスタートラインに立つ皆さんを、京都大学はこれからも応援していきます。卒業する皆さんには、ときには母校を訪ね、また同窓会活動の場として、また生涯の学習の場として、京都大学を人生の基軸としてこれからも積極的に活用していただけるように願っています。

 卒業して、社会で活躍される皆さんは、機会を与えられた様々な場所で、本学で身につけた自学自習の精神を活かし、活躍されることと思いますが、一方で母校の京都大学で更なる教育を受け、探究を続ける友人の応援もぜひお願いします。また、修士課程に進学され、大学院で研究を続ける人も多いと思いますが、京都大学は、優秀な人材を活かし、グローバルに評価される大学でありつづけるように必要となる環境改善に尽力してまいりますので、一心不乱に研究に打ち込んでくださるように願います。

 最後に、今後も絶えず自らを省みて、学業を積み、身体を鍛え、こころを磨き、人の痛みや社会の問題を敏感に感じとり、闊達な対話を大切にし、ご活躍されることを願います。学士の学位を授与された皆さんへの私の餞として、自らを十分に鍛え、自ら責任を持って、自身の中にあるものに頼るという「自鍛自恃」という言葉をおくります。

 本日は誠におめでとうございます。

会場の様子

関連リンク

平成25年度卒業式を挙行しました。(2014年3月25日)