平成21年度 大学院学位授与式 式辞 (2010年3月23日)

第25代総長 松本紘

学位授与の様子 本日、京都大学において修士の学位を授与される2,131名のみなさん、修士(専門職)の学位を授与される151名のみなさん、法務博士(専門職)の学位を授与される187名のみなさん、博士の学位を授与される557名のみなさん、まことにおめでとうございます。ご来賓の沢田敏男元総長、名誉教授、列席の副学長、研究科長、学舎長、教育部長、研究所長をはじめとする教職員一同ととともに、みなさんの学位取得を心からお祝い申し上げます。
  今年は、修士並びに博士の学位授与式を合同し、はじめての大学院学位授与式として、ここ「みやこめっせ」で挙行することになりました。これにより、多くのご家族、ご友人、関係者の皆様と学位授与の喜びをともにできますことを大変うれしく思います。
  本日で、京都大学が授与した修士号の累計は、61,280名、修士号(専門職)の累計は478名、法務博士号(専門職)の累計は893名、博士号の累計は、37,682名になりました。
  博士(薬科学)の学位については、今回が初めての授与となります。
  また、本日学位を授与されるみなさんには、651名の女性と248名の留学生が含まれています。
  これまでみなさんの在籍してきた大学院は厳しい研鑽の場であったかと思います。しかし、気が付いていない方も多いかもしれませんが、実はみなさんは研究室を中心に、綾なす人間関係の中で温かくはぐくまれてきたのです。そして、ともに未来の可能性に挑戦する多くの先輩・後輩や友人に囲まれ、成果を上げてきたのではないでしょうか。もちろんまわりの力というより、自らの力のみで優れた成果を上げてきたといい得る人もいるのかもしれません。しかし研究室という環境の光を受けて、たとえていえば、月の光のように輝いてきた人も多いのではないでしょうか。いくら美しくても月は自ら輝くことはできません。確かに直ちに太陽のような恒星のように自ら輝くというのは無理かもしれませんが、大学院において専門を修め、専門分野において自力で灯を点らせる力を学位の授与という形で京都大学において認められたみなさんです。臆することなく、自ら輝き、その光で社会全体をよきものに変える力になっていただきたいと思います。これがみなさんに課された使命です。
  学位を授与されるみなさんのご家族、ご友人、関係者の皆様には、この晴れの学位授与式へ大きな期待を胸にご臨席いただいているものと思います。本日学位を授かるみなさんは、この式典が終わった後、これまで受けた様々なご支援に対して感謝の気持ちを率直に伝えてください。私たち教職員一同も、ここに至るまでの様々なご苦労やご支援に対して御礼を申し上げ、今日の喜びを分かち合わせていただきたいと思います。

 

松本総長 修士の学位を授与されるみなさんの中には、独創性あふれる修士論文を完成させた人も、それぞれの専門分野の蘊奥(うんのう)を垣間見た人もおられるでしょう。それを人生の基礎として、それぞれの進路においてますます研鑽を積んでいただきたいと思います。とりわけ、博士課程に進学する人はそれぞれの専門分野へのさらなる沈潜が求められます。修士課程を修了し、多くは今後どの方向に自分の才能を伸ばせばよいかを見極めることができているものと思います。しかしながら、まだそのことを定め得ず悩んでいる人もいるかもしれませんし、課程を修了したものの、違う方面に才能があるかもしれないと思っている人もいるかもしれません。詩仙・李白は「天の我が材を生ずるは、必ず用あり」とうたっています。みなさんの才能が開かれる道は必ずあります。これからも絶えずそれを探りながら、自分の道を切り拓いていってほしいと思います。

 博士の学位を授与されるみなさんには、それぞれの専門を掘り下げ、他人が成し得なかった独創的な仕事を成し遂げたという誇りと自信がこれからの人生の大きな支えとなります。切り拓いた研究テーマそのものは、時の流れの中で陳腐化していく運命にあるものもあるかもしれません。しかし、それを作り上げる過程で傾けた努力や体験した悩みや成し遂げたときの喜びはみなさんの人格を磨いてきたはずです。私はジョン・F・ケネディーも好んだ上杉鷹山の「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなりけり」という言葉が好きです。似たような言葉は新約聖書のマタイ伝にもみられます。有名な「求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見いださん。たたけ扉を、さらば開かれん。」がそうです。すなわち、何事も気迫と自信をもって取り組めば必ず事は成る、成らないのはやりきるという強い信念がないからである、という考えでしょう。これからの人生で直面する苦しいときや追いかけるべき課題を見失ったときには博士論文の完成に費やした日々を思いだして、チャレンジする強い意志と信念を呼び戻していただきたいと思います。

 みなさんのこれから進む人生において一層の知識や経験が必要となる時がやってくるかもしれません。その際には、みなさんが学んだこの京都大学を思い出してください。そして気軽に大学を訪れてください。京都大学との縁は、同窓会や生涯の学びを通じてこれからも続きます。この大学で出会った多くの友人や先輩・後輩や教職員がみなさんの人生の基軸として力になります。

 中国の『十八史略』に「士は別れて三日なれば、即ちまさに刮目して相待つべし」という言葉があります。努力を重ねる者は日々成長するので、次に会うときには、きっと飛躍的な成長を遂げているからで刮目すなわち目をこすって注意深く見なければならないという意味です。みなさんと次にお会いするときには、必ずやさらに成長したみなさんの姿を刮目して見ることになると信じています。

 現在、大学は社会からの厳しい評価の目にさらされています。チャールズ・ダーウィンの進化論では、生き残るのは強いものでも賢いものでもない、適応できるものであると言っています。私たち京都大学も努力を重ね「強い大学」や「賢明な大学」だけでなく、「変化の空気を読み取り、変化に適応できる大学」をめざしたいと思っています。みなさんも母校を温かく見守り、今後もご支援いただきますようお願いいたします。同時に、京都大学はみなさんの人生の基軸となっていきたいと考えています。
  本日学位を授かりし3,026名のみなさんが、持てる力のすべてを生かしきる場所を見つけ、これまでの研鑽の過程で培われてきた豊かな人間力にさらなる自己研鑽を重ね、世界のリーダーたるべくさらに高度な教養を深め、いきいきと活躍することを願い、私のお祝いの言葉といたします。本日は、まことにおめでとうございます。

会場の様子

動画は以下のページをご覧ください

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