グローバルCOE「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」キックオフシンポジウム 挨拶 (2008年10月25日)

第25代総長 松本 紘

 グローバルCOEプログラムは、我が国の大学院の教育研究機能を一層充実・強化し、世界最高水準の研究基盤の下で創造的な人材育成を図るため、平成19年度からスタートした文部科学省のプログラムです。医学、工学、化学、数学、人文科学、社会科学など9つの分野について、全国の大学から申請が寄せられた中から、それぞれ12から14件程度が採択されました。
  京都大学からは、2007年度に6つ、2008年度に6つ、計12のグローバルCOEプログラム拠点が採択され、研究拠点形成と新領域の開拓に取り組んでいます。
 「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」は社会科学分野の拠点として、2008年度6月に発足しました。本日、国内外からのゲストを大勢お招きして、キックオフの日を迎えましたことは、まことに喜ばしいことと思います。
 「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」は、京都大学に集う社会学者および関連社会科学領域の研究者が、研究科の壁を越えて作ってきた教育研究ネットワーク「社会学環」(Sociology Ring)を基盤として設立されました。京都大学の誇る東洋学とフィールド研究の伝統とが、これに加わりました。「親密圏」というような人間生活のもっとも基礎の部分に注目することから、国家の制度やグローバル化といった「公共圏」を含めた社会全体の再編成の方向をさぐる、しかもそれをアジアという地域に格別の注目を払いながら行うという本拠点の特色は、まさにこうしたこれまでの京都大学の社会研究の特色を活かしたものです。
 「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」のプログラムは、これからの大学の進むべき方向についての、いくつもの斬新な提案を含んでいますが、京都大学としてとりわけ重視しているのは、「アジア版エラスムス・パイロット計画」です。
 日本政府は本年7月、アジア・太平洋地域で、単位互換制度を中心に大学生や教員の留学・交流を進める「アジア版エラスムス計画」を打ち出しました。日本、中国、韓国と東南アジア諸国の大学間で来年秋にも試験的に事業を開始し、5年間で最大約5,000人の交流を目指すもので、全体で数十校程度の参加を見込んでいるといいます。

 「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」の「アジア版エラスムス・パイロット計画」は、政府の計画に先んじて、それと独立に構想されました。地域による特性というものを研究対象とせざるをえない社会科学においては、自然科学におけるよりも一層、アジア地域の教育研究上の交流が重要な意味をもっているのだろうと想像できます。本拠点のメンバーは「社会学環」の時代から、海外とくにアジア地域の研究者と研究・教育両面における共同の実績を積み上げてきたと聞いていました。今日ここで世界各地から集まってこられた「海外パートナー拠点」の方々にお会いして、その絆の強さと、これからますます絆を強めていこうという皆様方の強い熱意とをあらためて実感しています。本プログラムが、まさにその名前のとおり、パイロットプロジェクトとして、教育研究のアジアネットワーク、さらにはグローバルネットワークを築いていくための先駆けとしての役割をはたしていくことができるよう、京都大学としても「アジア版エラスムス・パイロット計画」を全面的にバックアップしていく所存です。
 東アジアではすでに東アジア研究型大学協会(AEARU = The Association of East Asian Research Universities:アイール)というネットワークが存在しまして、現在4地域17大学が加盟して、研究者および学生の交流、共通のカリキュラムの開発と単位の互換および施設・情報・資料の共通利用など、相互の関心に基づく協力を行うことをめざしています。京都大学はちょうど現在、このAEARUの幹事校を務めています。また環太平洋大学協会(APRU = Association of Pacific Rim Universities:アプル)というネットワークもあります。まさに機は熟しているというべきでしょう。
 今日キックオフをした「親密圏と公共圏の再編成をめざすアジア拠点」の活躍と、海外の皆様とのパートナーシップのますますの発展をお祈りし、京都大学としての全面的支援をお約束して、挨拶とさせていただきます。