生存基盤科学研究ユニット研究成果報告会 挨拶(2008年7月16日)

尾池 和夫

 生存基盤科学研究ユニットとして初めての成果報告会の開催、おめでとうございます。ユニットが、設立以来2年を経て、順調に多岐にわたる研究成果を出しておられる様子を拝見し、大変心強く思っております。具体的な成果は、本日の研究報告を通じて明らかとなり、その中で評価されることになると思いますが、まずは順調にユニットとしての研究活動が展開されていることをプログラムを拝見して、私の期待したものが着実に実現されていることを感じます。この成果は特にユニット設立およびそれ以来の関係者である松本理事、井合初代ユニット長、関係する5研究所を始め、多くの関係者のご努力の賜物であり、深く感謝いたします。

 京都大学は国立大学でも最多の附置研究所群を擁しており、特に宇治キャンパスには防災研究所、化学研究所、エネルギー理工学研究所、生存圏研究所の4つの研究所があってそれぞれ活発に独創的な研究を行ってまいりました。これに東南アジア研究所を加え、人類の生存に関わる地球規模の問題を学際的に研究し、解決を目指す新しいタイプの研究組織として、生存基盤科学研究ユニット、(構想当時は研究院)を設立するまでにはかなり綿密な概念検討と準備の期間がありました。その中で、「自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献する」という京都大学の基本理念を体現し、また「京都学派」という言葉に代表されるような、個別学問の枠にとらわれない、分野を超えた「知の融合」を目指す言葉として、この「生存基盤科学」という概念が生まれ、具体化のための検討が行われてきました。生存基盤科学研究ユニットの設立により、この言葉は実際に新たなタイプの学問として成立し、このユニットの研究活動によって実体を与えられてきたわけです。実際、昨今の地球環境問題や、原油価格の高騰に見られる資源エネルギー問題、頻発する大災害など、複雑に絡み合う21世紀の人類の生存を脅かす問題は、文字通り「生存基盤」を支える新たな学問の必要性を示唆しており、私たち京都大学の目指してきたものの正しさ、重要性を改めて認識させることとなっています。

 この研究ユニットの活動はまだ緒に就いたばかりであり、取り組むべき課題は山積しております。今年度から認可予算により自主財源を得て「サイト型機動研究」が開始されるのはまことに喜ばしいことです。ユニットの研究計画と財政の自立を示すばかりでなく、生まれたばかりの「生存基盤科学」を机上の空論ではなく、現実の社会と環境で実践する一方、そこから学び、学問として昇華するという、「生存基盤科学」のコンセプトを具体的に示していただきたいと思っています。この21世紀型の新しい研究スタイルを身をもって示すという計画がこの研究所群の連携から生まれてきたことは、「生存基盤科学」の学問としての真の確立を示すものと思います。ぜひとも、地域社会や産業界との連携のうちに、京都大学の示す新たな「知のスタイル」を実証していただきたいと期待しております。

 次にユニットの目指すべき方向として、なお2つの視点からの期待を付け加えさせていただきたいと思います。第1は国際的な視点です。それぞれの研究所、研究者が極めて広範な世界的活動をされていることは十分認識しておりますが、京都発の総合科学としての「生存基盤科学」は、とくにアジアなどの途上国においては、具体的に「持続可能な発展」の方法論に視点を与えることで真に人類の問題を解決する力を得ることになるでしょう。第2は、教育の視点です。これはもとより、各研究所において「研究を通じた教育」として効果的に行われては参りましたが、この生存基盤科学の総合的学際研究の概念は、まだ教育活動として十分な取り組みは行われていないという見方もあります。2年前の組織発足の際にも申し上げたことではありますが、ぜひとも、学生の目線から見た立場で、宇治キャンパスの研究・教育活動において、このユニットが新風を吹き込んで下さることを期待しております。

 京都大学の研究所群は、その輝かしい成果に安住することなく、常に新しい概念と方法論を世に示すことで、わが国ばかりでなく、国際的にも新しい「知の地平」を切り開いてまいりました。この生存基盤科学研究ユニットは、時代と社会の要請にこたえる大学の姿を具体的に示す貴重な例であり、国際的に見てもこれからの大学の進むべき新たな方向を示唆するものと考えます。ユニットはこれからが本当の勝負どころです。このユニットが新しい学問のあり方、キャンパスのあり方を世界に示す場に発展することを願って、開会の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。