新年名刺交換会 挨拶 (2008年1月4日)

尾池 和夫

尾池総長明けましておめでとうございます。佳い新年をお迎えになったこととお慶び申しあげます。

年末に松本理事からiPS細胞研究センターの大筋が見えてきたという報告を受けて、私も今回は久しぶりにややゆっくりした休暇を頂きましたので、京都大学創立111周年の1月1日には、私もテレビで初日の出を見ておりました。

山中 伸弥先生たちの考えているiPS細胞研究センターの構想では、このセンターを中心にさまざまの研究機関によるiPS細胞研究コンソーシアムを形成して、ティームジャパンで幹細胞研究の全体を活性化しながら、再生医療応用を目指した研究を集中的に進めるということになるでしょう。関係機関のご理解とご協力を得ながら、京都大学としてこのような研究を全面的に支援していく考えであります。

 
物質ー細胞統合システム拠点昨年の出来事はたくさんありましたが、日本で五つ選ばれた世界トップレベル国際研究拠点形成促進プログラムの一つが、井村元総長によって導入された再生医科学研究所の研究活動を中心に組織された「物質ー細胞統合システム拠点」であり、さらにその研究成果の中から、山中 伸弥先生たちの研究成果が生まれたのです。

 
他にも昨年、さまざまの素晴らしいことがたくさんありました。京都大学名誉博士の称号を、ジェーングドール博士に授与したことも忘れられないことです。大晦日には、火星にある直径160キロという大きなクレーターに、花山天文台長であった宮本 正太郎先生の名が、IAU(国際天文学連合)によって付けられたというニュースが伝えられました。その他にも素晴らしいニュースがたくさんあります。ウェブサイトのトピックスやニュースリリースのページで、あらためてご覧いただきたいと存じます。

ジェーン・グドールさん新しい年のことを少しくわしくお話ししたいと思います。

平成20年度の科学研究費補助金は、前年度に比べて19億円増の、1932億円が認められ、とくに若手研究者育成・支援の拡充で56億円の増があり、若手研究(B)と若手研究(スタートアップ)への間接経費30パーセントが措置されました。また「新学術領域研究」が新設され、人文・社会科学の振興として6 億円が措置されました。

京都大学に関しては、施設整備費で、北部構内の総合研究棟の改修、飛騨天文台の研究室の改修、中央の文学部陳列館、人文科学研究所の本館と西館の改修が補正予算で実現し、宇治の本館二期工事とiPS細胞研究拠点施設が内定しました。

一方、桂キャンパスの整備は大幅に遅れていて、とくに工学研究科の方々には多大のご不便に耐えていただいていますが、国の施設整備に対する投資が少ない現状では進展を望むことができず、施設整備をどうやって進めていくか、皆さま方の実効あるお知恵をいただきたいと思っております。

写真入学定員の改訂では、要求していたものがすべて認められました。内容は、医学研究科社会健康医学系専攻専門職課程の6名増、情報学研究科の修士課程21名増と博士課程14名減、経営管理教育部経営管理専攻の専門職課程15名増です。

特別教育研究経費では新規で要求した生存基盤科学におけるサイト型機動研究の推進など5件、継続の22件が採択され、再生医科学研究所幹細胞医学研究センターなどで増額されたものが6件ありました。

ご承知のように、効率化係数として514,028千円、経営改善係数として445,937千円が減額されましたが、特殊要因経費、特別教育研究経費分を入れると、合計では6,469千円の減額で収まることになりました。
概算要求に関係して皆さんが努力して下さったおかげと、たいへん感謝しております。

政府の方針として、来年度、学部の定員超過を抑制する仕組みが新しく導入されました。平成20年度から以後に入学する学部学生の定員超過率で授業料収入相当額を積算しておいて、中期目標終了時に国庫納付させるという仕組みです。平成20年度は130パーセント、平成21年度は120パーセント、平成22年度からは110パーセント(定員100人以下の学部は120パーセント)という厳しいラインが設定されました。留年は2年以内が控除されるという仕組みであります。京都大学としても、この制度から大学教育のありかたの根幹に関わる大きな影響をうけることになります。

さて、年末の12月24日のことですが、島原の角屋で俳人たちが集まって開催される蕪村忌の句会に招待されて参加することができました。蕪村忌というのは、俳人であり、画家でもあった与謝蕪村の忌日です。

財団法人角屋保存会が、江戸時代の揚屋文化の唯一の遺構である角屋の建造物と角屋中川家伝来の美術品や古文書類の保存と活用を図る事業を行っております。江戸の「もてなしの文化」の場として昭和27年(195年2)に国の重要文化財に指定されたものです。平成10年度から「角屋もてなしの文化美術館」が開館し、一部が公開されています。

この建物と文化財を初めて拝見して、私は京都大学が成果を上げてきた、木造建築文化財の耐震化の技術などを役立てることのできる場所が、京都の中にまだまだ多く存在するということをあらためて認識しました。

今年は戊子(ぼし、つちのえね)の年です。福井地震から60年です。この年は前回の戊子の年でした。福井地震は西日本の前回の地震活動期最後の大地震で、死者と行方不明者3769名という大震災となりました。その後50年近くの静穏期の後、1995年から西日本は次の地震活動期に入っています。花折断層など活断層の多い京都盆地にある京都大学は、震災の軽減のために常に準備を進めていなければなりません。120年前の戊子の年、1888年には、7月15日に磐梯山が噴火して山体が崩壊し、泥流で461名が死亡しました。前回の地震活動期が始まった1891年濃尾地震は、京都大学創立の6年前でした。

京都大学では、昨年「湯川・朝永生誕100年」を祝って、まだその余韻がありますが、今年、2008年は、また指揮者の朝比奈 隆さんの生誕100年であります。朝比奈 隆さんは、京都帝国大学法学部在学中に京都大学交響楽団でヴィオラとヴァイオリンを担当しました。さらに学士入学した文学部卒業の1937年に、京都大学交響楽団を指揮して指揮者デビューしました。文学部在籍中から、現在の大阪音楽大学に勤め、卒業後教授に就任しました。

京都大学は、さまざまの人材を輩出してきたことをあらためて思い起こします。今年は、京都大学創立111周年です。それを記念して京都大学の将来を考えた論文を募集する計画があります。名誉教授の先生方も今日たくさんご参加くださっていますが、ぜひ力作を応募していただくよう期待しています。

本年もどうかご健康第一に、ご活躍くださるようお祈りして、新年の挨拶といたします。

ありがとうございました。