第9回京都大学国際シンポジウム「人間の安全保障のための地球環境学」 挨拶 (2007年6月22日)

尾池 和夫

尾池総長 第9回京都大学国際シンポジウム「人間の安全保障のための地球環境学」の開催にあたり、主催者の京都大学を代表してご挨拶を申し上げます。

「京都大学国際シンポジウム」は、2000年以来大学の事業として毎年開催してきました。これまで海外で開催してきましたが、日本国内で開催するのは今回が初めてです。本年は、京都議定書が採択されて10周年、そして持続可能な発展の概念を提示した「ブルントラント委員会報告」が発表されてから20周年の記念すべき年に当たります。去る6月にドイツのハイリゲンダムで開催された主要8カ国首脳会議(G8サミット)においても、地球温暖化問題が人類社会の将来を脅かす最も重要なテーマとして議論されました。その中で地球温暖化問題が安全保障にもかかわる課題として議論され、「気候安全保障」という言葉も使われました。

本日は特に首相官邸から安全保障担当の小池百合子首相補佐官に基調講演をお願いしておりましたが、国会の都合で環境省地球環境審議官の小島 敏郎様にご講演をお願いいたします。小池補佐官は環境大臣を長く務められ、環境と安全保障を論ずるにもふさわしい方で、このシンポジウムにも大変関心を示していただいております。ご予定の基調講演の内容を含めて小島審議官に今日はお話しいただきます。またシドニー大学国際安全保障研究センター所長のアラン・デュポン教授にも、専門的な立場からご講演いただきます。

地球温暖化に代表される地球環境問題は、我々の生活や生存の基盤をおびやかすものであり、その解決に向けた総合的な取り組みの重要性は近年ますます増大しています。人類が自ら起こした自然環境の変化のなかで、果たして生き残れるかどうか、その分かれ道に立っているのが21世紀であると京都大学では認識し、人類の未来のための教育と研究に取り組んできました。

京都大学は2001年に、創立以来築いてきた自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献するとしており、8項目からなる京都大学基本理念を定めました。その中で、「基礎研究と応用研究、文科系と理科系の研究の多様な発展と統合」、「地球社会の調和ある共存」に寄与する教育や国際交流を推進すると述べています。

この理念は、本シンポジウムのテーマを考える上でも大変重要です。人間の安全保障の根幹は、「環境の持続可能性」の確保であり、そのためには、自然科学・社会科学・人文学の諸学の成果を統合した地球環境学の生成と発展が不可欠だからです。こうした研究・教育活動を通じて本学の目指す地球社会の調和ある共存に寄与することができると確信しております。

会場の様子本日の国際シンポジウムは、京都大学におけるこれまでの地球環境学の教育と研究の成果の上にたち、国内外から多くの専門家・実務家にも加わっていただき、新たな地球環境学の方向性を討議し、政策的な提言も含め、世界に向けて発信することを目指しています。本日は基調講演をいただいた後、各分野の専門家によるパネルディスカッションが予定されております。また、明日は3つのテーマに分かれた分科会で、より密度の濃い議論と学術交流が予定されております。最後までご参加いただけると幸いです。

今回の京都大学国際シンポジウムでは、人類社会の重要課題となっている地球環境問題とそれに対処するための新たな学の統合・発展に向けた活発な議論がなされます。その成果が、人類共通の課題である地球環境問題の解決に寄与するとともに、今後の地球環境学の教育と研究のさらなる発展に寄与することを心から期待しております。

皆様方のご議論や学術交流が、大きく実を結ぶことを願って、私の開会のご挨拶といたします。

ありがとうございました。