リサーチ・リソース・ステーション完成記念式典 挨拶 (2007年4月27日)

尾池 和夫

尾池総長霊長類研究所の「リサーチ・リソース・ステーション(RRS)」(環境共存型飼育施設による新たな研究用霊長類創出プロジェクト)の完成記念式典の開催にあたり、京都大学を代表してご挨拶申し上げます。

この式典を迎えるまでに、多くのご関係の皆さんにお世話になりました。何よりも地元の市民の皆さまにご理解とご協力をいただきました。心からお礼を申し上げます。

霊長類研究所は、「人間を含めた霊長類の基礎的研究を行う総合的な研究所」として設立され、今年40周年を迎えます。この研究所をたいへんわかりやすく、短い言葉で紹介してくれているのは、実は、京都大学の資料ではなく、全国47都道府県の地域情報ナビの集合体である『地域情報ナビimpulse』の「愛知情報ナビ」であります。

そこには、京都大学霊長類研究所として、このように書いてあります。

「日本学術振興会先端研究拠点事業『HOPE』(人間の進化の霊長類的起源)を推進し、霊長類学および進化人類学の国際的な研究拠点になっています。さらに、『リサーチ・リソース・ステーション』事業を推進して、霊長類の多様な研究の基盤を整備しています」

私自身は、2004(平成16)年7月28日、入倉 孝次郎理事と一緒にこの研究所を訪ねました。そのときには、21世紀前半の地震活動の長期予測の話と、強振動研究の現状の話を、研究所のたくさんの方々に聞いていただきました。これは、これからの安全、安心な研究所運営計画の参考にしていただくことができたと思います。

今日の式典を迎えた「リサーチ・リソース・ステーション」が持っている、先進国で唯一、野生のサルが広く分布する日本ならではの研究姿勢が、きっと世界に影響を与えるという思いで、そのとき、計画の用地を視察させていただきました。

リサーチ・リソース・ステーション今年、1月24日にも、視察させていただき、若手研究者の皆さんと話し合いをしたり、所員の皆さんに「京都大学の現状と課題」と題する講演を聞いていただいたりしました。アイとアユムの学習を見学し、展示室を見学して、善師野キャンパスを視察し、栗栖の旧日本モンキーセンター研究所跡を訪れました。またその機会に、田中 志典犬山市長を表敬訪問してご協力に謝意を表しました。

そのあと、あらためて「京都大学百年史」を読んでみました。1964(昭和39)年4月、日本学術会議は第4部人類学民族学研究連絡委員会の発議により、第41回総会で霊長類研究所設立の勧告を決定したとありました。同年5月13日、日本学術会議会長であった朝永 振一郎博士から、池田 勇人内閣総理大臣に、「霊長類研究所(仮称)の設立について」という「勧告」がおこなわれましたが、その主文は次の通り、たいへん短いものでした。

「霊長類研究の重要性に鑑み、その基礎的な研究をおこなう総合的な研究所(霊長類研究所、仮称)を速やかに設立されたい」

この「勧告」から3年後、1967(昭和42)年6月1日、京都大学霊長類研究所が全国共同利用の附置研究所として発足したのであります。

平成18年度特別教育研究経費の「研究推進」の中で、「戦略的研究推進」というのが75課題あります。その中で、京都大学は、ウイルス研究所の「新興・再興ウイルス感染克服研究連携事業」、再生医科学研究所の「再生医科学研究所附属幹細胞医学研究センターにおける、新たなES細胞(臨床応用用ES細胞)樹立のプロジェクト研究」、化学研究所の「超臨界二酸化炭素ナノポーラスエラストマー創製事業」を、平成17年度から推進しており、平成18年度からは、この霊長類研究所の「リサーチ・リソース・ステーション(RRS)-環境共存型飼育施設による新たな研究用霊長類創出プロジェクト」を5年計画で進めています。その説明には「施設は、予算措置を受け平成17年度末に竣工する予定であるが、その後早期に母群導入・繁殖を開始し、新たな研究用霊長類の創出・育成体制を確立するものである」とあります。

リサーチ・リソース・ステーション今回は、第一段階の完成であって、今後ますます拡充・充実されていくことになる訳ですが、今までと同様に今後とも、犬山市・愛知県の全面的なご協力、地元住民の方がたのご理解、工事を請け負ってくださる関係の皆さまのご協力、さらに、日本生理学会、日本神経科学学会、日本霊長類学会など関係分野の研究者のご協力をいただいて、進めていくものであります。

今日の式典が、霊長類学の新たな展開のために、このリサーチ・リソース・ステーションが活用される起点となることを願うと同時に、犬山市が提唱する「全市博物館構想」にも協力して、サル飼育施設の見学などを通して、市民のための地域環境向上に貢献できる契機となることを願っております。

もう一度、ご関係の皆さまのご協力に感謝して、私の挨拶といたします。

ありがとうございました。