新規採用職員研修開講式 挨拶 (2007年4月3日)

尾池 和夫

尾池和夫総長京都大学に新しく就職された38名の方々に、研修開講式にあたって、就職のお祝いを申し上げます。皆さんを京都大学に歓迎するとともに、京都大学をご自分の才能を注ぎ込むに足る職場として選んで下さったことに、心からお礼を申し上げます。新規採用の教職員は、今日ここにおられる皆さんだけではありません。国立大学は法人化してそれぞれが独立した運営をしていますから、3月末まで公務員だった方も、他の大学に勤めていた方も、京都大学にとっては同じ新規採用職員です。それぞれに京都大学の学風をまず学んで、この大学の歴史を学び、この大学の学生に接してほしいと思います。この挨拶は、京都大学のすべての教職員へのメッセージとしてホームページに掲載しておきます。

まず、融通無碍(ゆうづうむげ)という言葉を覚えてください。融通という言葉と無碍という言葉の複合語です。融通とは、広辞苑によれば、「融けあって滞りなく通ずることで、金銭などをお互いの間でやりくりすることという」意味が2番目にあり、3番目に「臨機応変に事を処理すること」とあります。皆さんが仕事する上で、この「臨機応変」が大切なのです。

無碍とは、同じく広辞苑によると、障りのないこと、とらわれがなく自由自在なこと、また、障害のないこと、とあります。この「とらわれなく自由自在なこと」を大切にしていただきたいのです。

併せて「融通無碍」という複合語は、「一定の考え方にとらわれることなく、どんな事態にもとどこおりなく対応できること」ということになります。

この説明の中で使った、「臨機応変」というのは、「機に臨み変に応じて適宜な手段を施すこと」とあり、用例として「臨機応変に対応する」という言葉があげられています。これも同じようによく覚えておいてほしい言葉です。

言い換えれば、この2つの言葉さえしっかりと自分のものにしておけば、皆さんはこの「自由の学風」という言葉を持つ京都大学の職員として、必ずりっぱに仕事をしていくことができると私は信じています。

木谷雅人理事次に京都大学の規模を覚えてください。大学になくてはならないのは、もちろん学生であります。どれだけの学生がどこにいるかをいつも気にしてほしいと思います。学生の存在を忘れていては、京都大学の仕事はできません。今年の3月23日、博士学位授与式では、課程博士540名(外国人83名)、論文博士 92名(外国人5名)合計632名に、京都大学博士の学位を授与しました。88名の外国人の中では、中国22、台湾5、韓国17、インドネシア8、タイ 3、バングラディシュ4、フィリピン、パキスタン、エジプト、インド、各2、その他17の国の各1名です。

京都帝国大学での旧制博士学位、9,651名と一緒にして、110年の歴史の中で総計、34,993名の博士を誕生させました。例えば、野口 英世博士、中谷 宇吉郎博士、白川 静博士などもおられます。その他にもどんな人物がいるかを、歴史の中から学んでほしいと思います。

修士の学位は16分野で2,146名(女子444名)、累計54,801名、社会健康医学修士(専門職)20名(女子11名)、累計73名、法務博士(専門職)189名(女子42名)累計323名でした。

3月26日の卒業式では、10学部2,708名(女子561名)が学士の学位を授与され、110年の歴史の中で累計176,806名となりました。旧制卒業者49,712名を含みます。

今年度の学部入学者について見ると、前期日程の合格者は合計2,904名(募集人員2,819名)(女子669名)、後期日程の合格者は合計24名(女子 10名)、合計2,928名(女子679名)、京都大学法科大学院は、法学未修者枠が65名、法学既修者枠が146名の合計211名でした。

3月末までに入学手続きが行われ、2,927名の新入生が学部に入ることになりました。

ホームページなどにさまざまの記録があります。その中で、トピックスやニュースリリースを見て、また私の式辞なども参照していただいて、1年間に大学本部が主催する行事にどんなことがあったかを見てください。また、各部局の行事にどのようなことがあったかも見てほしいと思います。日本の大学は4月から3月が年度ですから、この1年を振り返ることで、ほぼどのような1年のサイクルがあるかを見ることができると思います。

j-Podそれらの出来事の中で、その持つ意味を考えてほしいと思います。いくつかの例を挙げてみます。

2006年8月29日、国際交流セミナーハウスが、j.Pod木造建築工法で完成しました。建築材料は京都大学和歌山研究林の杉の間伐材を使用しました。これは21世紀の地球環境の問題に深く関係しています。

2006年11月3日、京都大学同窓会設立総会とホームカミングデイを開催しました。京都大学の110年の歴史の中で、ようやく京都大学同窓会が正式に発足しました。なぜ今同窓会でしょうか。それを考えてみてほしいと思います。

2006年11月25日、第8回京都大学国際シンポジウムを開催しました。平成12年度以来の大学をあげての事業ですが、今回は、本学の基本理念である「地球社会の調和ある共存への貢献」を目指し、学際共同の第一歩をしるそうとするものでした。場所はタイ国バンコック市内でした。

日中大学学術フォーラム 学長円卓会議の様子2006年12月9日、京都大学、慶應義塾大学、復旦大学(中国)、北京大学(中国)の4大学が呼びかけて、上海において「第一回日中大学学術フォーラム」を開催しました。中国を中心として、東アジアがこれからの京都大学にとって特に重要な意味を持っていると私は思っています。

2007年1月23日、湯川 秀樹・朝永 振一郎生誕百年記念式典・記念講演会を開催しました。この歴史をよく学んでおいてほしいと思います。

2007年1月31日、京都大学環境報告書2006発行記念シンポジウム- 「脱温暖化宣言」にむけて-を開催しました。

2007年2月5日、医学部附属病院に病児保育室を開室しました。男女共同参画社会の実現が大きな課題です。

2007年3月10日、第3回京都大学人文科学研究所TOKYO漢籍SEMINARを開催しました。同研究所が80年近くにわたって蓄積してきた中国学研究の成果をわかりやすく紹介したものです。

3月10日から11日にかけて行われた全国七大学総合体育大会馬術の部2007年3月14日、全国七大学総合体育大会馬術の部で京都大学が総合優勝しました。今年は七大学体育大会の主管校です。

2007年3月17日、第2回 京都大学附置研究所・センター主催シンポジウムを開催しました。京都大学は研究所が一番多い大学です。その特徴を市民にも、皆さんにもまず、理解してほしいと思います。

もう一つ大切なことがあります。今年、2007年は、1707年の宝永地震から300年です。宝永地震は南海トラフという海溝に沿って巨大地震が発生し、西日本から関東に大震災をもたらせました。皆さんが中堅になった頃に同じ南海トラフの巨大地震が起こります。その前には内陸の活断層帯の大地震が京都にもある可能性があります。そのとき、京都大学も被害を受ける可能性があります。今耐震工事なども進めていますが、そのような大災害に備えることも日頃から考えておいていただきたいと思います。

大学の活動は、申すまでもなく教育と研究と社会貢献です。京都大学には現在、10の学部、19の大学院、13の研究所、18の研究センターがあります。約3,000名の教員、2,300名の常勤職員、9,800名の非常勤教職員、22,000名の学生がいます。

当日の様子その京都大学の中で、皆さんはこれから仕事をしていきます。どのような仕事を、どこでするか。どのようにその仕事をしていくか。またあなた方自身がこれからこの京都大学をどのように育てていくか、それを考えていただく研修です。しっかりと考え、そして自信を持って仕事についてください。仕事に当たっては迷うことなく、思い切って信じる道を進んでください。分からないときは京都大学のミッションを思い出して、教育と研究と医療のために、学生のためになると信じる仕事をしてください。それさえ守っていれば、かならずうまく進みます。

また、心身の健康が何よりも大切です。一人で悩むことなく誰かに声をかけて相談しましょう。相談相手が見つからないときには私にメールを送ってください。体の健康にも十分気をつけながら、力一杯活躍してくださるようお願いして、私の挨拶としています。

ありがとうございました。