京都大学環境報告書2006発行記念シンポジウム 挨拶 (2007年1月31日)

尾池 和夫

尾池総長京都大学では、2006年度の環境報告書を発行いたしました。今日は、その発行を記念し、さらには、今後の取り組みに向けた宣言を行うシンポジウムです。たくさんの方々にご出席いただき、また、多くの方々のお世話で開かれることになり、本当にありがとうございます。

私は京都大学に多くの窓を開けて、大学の中を市民の皆さんに見てほしいと思っています。社会から見れば、大学というところは、もちろん教育研究を行っているということまではわかるでしょうが、具体的に日々どのような活動が行われているかわからない、まあ、大学なのだからそんなに無茶なことはしていないだろう、くらいの感覚ではなかったでしょうか。そういった意味では、環境報告書そのものは環境配慮促進法という法律で、有無を言わさず書かされたものではありますが、大学が教育研究を行ううえで環境にどのような負荷をかけているか・・・社会から見ていただく「窓」がひとつ増えたと考えています。環境報告書の表紙に書いてある「Think Globally, Act locally in the Campus of Kyoto University, Open the Window」というキャッチコピーにも通じるものと思います。窓をあけるだけではなくて出て来るようにというお声もありますが、このシンポジウムは、それに一歩近づいたものとなるように願います。

さて、もう1月も末となりますが、今年の冬は暖かく、雪も少なく、スキー場などは非常に困っているようです。一週間前には、北の天満宮の梅が咲いたというニュースが流れました。例年より1ヶ月早いそうで、俳句を楽しむ私としては、季語を選ぶ際にも、悩みの種になりそうです。これは世界的に見ても同じ状況のようで、この12月の世界の平均気温は12月としては過去最高となったそうです。温室効果ガスとの因果関係を科学的に証明するのは簡単ではないようですが、明らかにそうとわかったときには、手遅れだということは確かです。地球温暖化の問題が人類の最も重要な問題になっていくことは間違いないでしょう。

皆さんもご承知のとおり、1992年に開催された地球サミットの「気候変動枠組条約」で地球温暖化防止に向けた基本方針が示されました。これをうけた形で 1996年に京都議定書が採択され、2005年2月に発効しました。このなかで、日本には、2012年までに1990年比6%の温室効果ガスを削減するという義務が課せられています。さらに京都府や京都市においては、2010年度までに1990年比10%削減という、高い目標が掲げられました。京都大学も、京都の地に根をはる大学として、その一端を担わなければなりません。

地球温暖化の原因となっている化石エネルギーの使用に関しては、京都大学は京都市全体の1%以上のエネルギーを消費しています。省エネルギー法で、毎年、原単位あたり1%の削減を義務付けられており、本学でもさまざまな省エネに取り組んできました。その具体例はこのシンポジウムでも触れられることでしょうが、京都議定書を鑑みると、今後、かなり思い切った削減策が必要になってきます。そこで、例えば、電力使用に対して課金する環境税のような制度を大学で実施できないかと考えています。個々人や研究室の使用量を抑制し、また削減努力が評価されるようなシステムとするには、工夫が必要で、また学内の説得も簡単ではないと思いますが、これからの課題としてあげさせて頂きます。

今お話したのは、化石エネルギーの使用によるものです。過去何億年もかけて、地球大気に含まれていたCO2を固定した状態で地下に眠っていた化石エネルギーを、ここ100年ほどの間に一気に大気に放出してしまったのです。今日のシンポジウム後半では、バイオマスも話題になるようですが、生物起源エネルギー、いわゆるバイオマスエネルギーの炭素は、もともと大気中のCO2を植物が光合成により固定したものなので、燃焼等によりCO2が発生しても、実質的に大気中のCO2を増加させず、CO2収支としてはプラスマイナスゼロであり、その点が化石エネルギーとは大きく違います。バイオマスは自然界におけるエネルギー密度が非常に小さいので利用が難しい面があるのですが、今後大変重要な役割を担うことになるでしょう。

 

「木文化再生研究会」が開発したj-PODに座る尾池総長 バイオマスと言いますと、本学は多くの演習林を抱えております。先月は京都大学フィールド科学教育研究センターの森林ステーションの一つである和歌山研究林に行って参りました。実は、そこで間伐材を切り出し、利活用する取り組みが始まっています。一つは、京都大学「木文化再生研究会」が開発したj-POD と呼ばれる構造体です。この吉田キャンパス内でも、国際交流スペースとして使われているものがありますが、環境配慮はもちろんのこと、耐震性にも優れ、また場所を選ばない設計で、本学が社会に広めようとしている知的財産のひとつです。また、もう一つは、間伐材を使ったオリジナルなデザインの椅子です。和歌山訪問の際に、田辺市の真砂(まなご)市長室で、第一号に腰掛させていただきましたが、こちらも、近々桂キャンパス内にお目見えする予定です。このような試みがあるものの、使ったのはほんの一部で、また、部材を切り出した後の端材などの利用も課題です。本日の京都大学名誉教授、池上先生の基調講演、そしてその後のパネルディスカッションでもバイオマスが話題となるようですので、有用な情報を頂けるものと期待しております。

最後になりましたが、今回の環境報告書作成にあたりましては、学生のみなさんやステークホルダー委員会のみなさん、今日来ていただいた小学校のみなさんをはじめ表紙作品に応募いただいた方々、様々な方にお世話になりました。また、この後ご挨拶頂く京都市の上原副市長始め、池上先生、パネリストのみなさま、そして、新しい「窓」から京都大学を覗きにお越しいただいた皆さまも、ありがとうございます。大学を代表して、お礼の言葉を申し上げ、私からの挨拶とさせていただきます。

(当日はシンポジウムに全部出席できました。その内容も参考に、後日まとめたものです。)