NPO法人花山星空ネットワーク設立式典 祝辞 (2007年1月29日)

尾池 和夫

NPO法人花山星空ネットワーク設立、まことにおめでとうございます。

会場の様子 京都大学の天文台は、もと吉田の大学本部構内にあったのですが、大学周辺が明るくなって、1929(昭和4)年に花山天文台が設立されました。設立の当初から全国のアマチュア天文観測家にも天文台を開放し、アマチュア天文学会の草分け的存在である東亜天文学会を育てるというような歴史があり、市民に親しまれてきました。

このNPO法人花山星空ネットワークは、このような精神を受け継いで、市民の皆さんと天文台を結び、花山天文台および飛騨天文台の施設と知財を活用する目的で誕生しました。

現在の両天文台では、国内最大級の太陽分光観測望遠鏡、高分解能Hα単色太陽像撮像望遠鏡、国内二番目の大きさのレンズを持つ45cm屈折望遠鏡、データ解析コンピューターシステムなどを持っており、太陽の研究を中心とした天体物理学の教育研究に力を注いでいます。

太陽分光望遠鏡は70cm口径の反射鏡を持つ水平式太陽望遠鏡と焦点距離15mの高分散分光器で構成されていて、市民や小中高生の見学の際には、赤から紫までのきれいな原色の太陽スペクトルを楽しんでもらっています。最近では高校生の観測実習などにも開放されています。また、45cm屈折望遠鏡は天体観望会で、木星、土星、火星、月などの姿を市民の皆さんに観ていただいています。

 花山天文台1999年の70周年記念を契機として毎年行っている天文台一般公開は、年々参加者が増えており、更に回数を増やしてほしいとの強いご要望をいただいています。また、最近SSH(Super Science High school)やSPP(Science Partnership Program)に選ばれた高校から、天体観測実習の要望が相次いで寄せられ、中学小学校の見学も増加しています。

今日本では、小学校や中学校の先生たちに文系出身の方が多く、小学生や中学生に理科の面白さ、自然科学への夢を育てることが重要であるにもかかわらず、かならずしもそれがうまくいっているとは限りません。私自身は、小学校や中学校で、国語の教科書に出てきた文章から、理科を学んだことが貴重な経験となりました。そのことを考えて、例えば京都大学ジュニアキャンパスという仕組みを作って、中学生に大学の学問の内容を学んでいただく試みを実行しています。少しでも若い方たちに本当の学問の面白さを知っていただきたいと思っているからです。

大学の役割は、教育と研究と社会貢献です。社会貢献には、市民に生涯学習の機会を提供することも含んでいます。大学の教職員は、学生の教育などの仕事で忙しく、さまざまのご要望に十分に応えることができないのが現状です。そこで、市民、教育関係者、学生、若手研究者などの中に科学を愛する人々を広く募って、非営利活動団体(NPO)を設立して、継続的に社会に貢献しようという目的で、昨年4月にNPO花山星空ネットワークという名称で、このNPO法人が活動を開始したとうかがっています。

 望遠鏡を覗く人たち

花山星空ネットワークでは、さっそく来年度の事業を計画しておられ、天体観望会の開催、講演会の開催、天体観望会指導者養成講座の開催、高校生の天体観測実習指導、小中学生の天文台見学・天体観望体験の支援、飛騨天文台訪問夏休み自然体験教室、こどものための望遠鏡教室、名月・名曲鑑賞会、というように、盛りだくさんの計画が列挙されています。

また、将来計画として、京都大学と協力して、花山天文台にプラネタリウムを核とした天文宇宙センターのようなものを新設して、花山天文台を、科学を愛する市民の交流センターとする夢をお持ちです。また、自然に囲まれた飛騨天文台に子供たちを招いて、自然を実感していただく計画もあり、さらには、小学校、中学校、高等学校の教員が、学部や研究科との協力で、科学の楽しさを学ぶシステムなどの可能性を探るということも考えておられます。

このような夢のあるご計画に、私もできるだけの応援をさせていただきたいと思っています。皆さまのあたたかいご理解とご支援を賜りますよう、私からもお願いして、NPO法人花山星空ネットワークの設立へのお祝いの言葉といたします。

ありがとうございました。