放射線医学総合研究所との連携協力に関する基本協定の締結にあたって (2006年10月2日)

尾池 和夫

尾池総長

 ただいま放射線医学総合研究所と包括協定を締結いたしました。
 この協定は、放射線科学に関して、研究、教育、医療を総合的に推進するためのものであります。この締結にいたるまでのご関係の皆さまのご努力に深く感謝し、放射線医学総合研究所の方々に、京都大学を代表してお礼を申し上げます。

 放射線は1895年にレントゲンによって発見されて以来、100年有余の研究の歴史をもっております。そして今日の市民生活のさまざまな面に深く根ざした技術として定着をしており、とりわけ医学面での放射線の恩恵は限りないものがあります。レントゲンは1901年にノーベル賞を受けましたが、その頃すでに第三高等学校の先生と島津製作所の共同研究でX線装置の実用化に成功しており、1897年に京都大学が創設された時から産学連携が活発であったことを示しています。

 そもそも京都大学は、これまで放射線にかかわる研究とそれを通じて社会に貢献してきた歴史をもっております。ノーベル賞に輝く湯川博士については申し上げるまでもありません。しかし放射線科学研究の伝統をもつ京都大学が、1945年に原爆投下直後の調査において原爆の実体解明に大きな役割を果たしたことも歴史の重要な1ページであり、また、本学の調査団員のなかで11名もが、同年9月の枕崎台風による山津波で亡くなられた歴史もあります。昨年はその60周年の慰霊の式典を挙行しました。

調印式の様子

 京都大学の放射線研究の歴史は現在も脈々と受け継がれており、本学における放射線科学関連の部局や専門職の研究者の数は、他大学に類例を見ないほどであります。しかし放射線の問題は、非常に短い時間単位で起こる素粒子物理学過程に始まって、分単位から年単位までおよぶ時間で起こる生物事象まで広範なものを含みます。そしてこの広範さこそ放射線科学の特徴であります。

 今日放射線が我々の日常生活のなかで不可欠なものになっている状況を受け、本学では新たに関連する部局・研究室を横断的に組織して、放射線科学の研究と教育の拠点形成を推進しております。そして本日の協定は、まさにこのような広がりをもつ放射線科学をさらに推進するための重要な第一歩をなすものであります。この包括協定が、放射線にかかわる最先端の課題から地道な研究課題までのあらゆる部分で、研究の一層の発展につながることを期待しつつ、私の挨拶といたします。
 ありがとうございました。