総合博物館 平成18年春季企画展「コンピュータに感覚を-京大情報学パターン情報処理の系譜-」開会式 式辞 (2006年6月6日)

尾池 和夫

会場の様子

 本日は、京都大学総合博物館で明日より開催されます「コンピュータに感覚を -京大情報学パターン情報処理の系譜- 」の開会式に多数ご出席を賜り、ありがとうございます。

 京都大学総合博物館では、総合大学としての幅広い分野の学術の研究成果を、広く一般の皆様に公開して参りましたが、今回の展示は工学系、とくにコンピュータに関わる情報学の歴史を取り上げております。

 コンピュータといえば、いまでは私どもの生活になくてはならない技術となりましたが、最初のデジタルコンピュータが生まれてから、まだ半世紀ほどしか経っていない短い歴史の中で、急速な発展を遂げてきたものです。京都大学でも、1950年代という早い時期から、この新しい技術の可能性に目をつけ、工学系の研究者がこの研究開発に取り組んで参りました。

 コンピュータに関する技術史では、初期にはイギリス、ついでアメリカの研究成果が世界を牽引したことが広く知られております。一方、日本では、デジタル的な情報処理については、情報の入力に関して,日本語の特質に起因する特有の困難さが伴いました。こうした状況をむしろきっかけにして、研究者たちが困難に立ち向かった結果、パターン情報処理の分野で世界的な成果を挙げてきたのですが、京都大学はこの分野の発展に大きく貢献して参りました。

尾池 和夫 総長

 パターン情報処理の分野、最近はメディア情報処理と呼ばれていますが、この分野は、まさに展覧会の題名にございますように、コンピュータに感覚を与え、さらには知能も与えていくことを研究している分野です。実は、コンピュータの初期の姿には、現在ではあたりまえのディスプレイや、キーボードといった入出力装置はついておりませんでした。そのようなコンピュータが今日のような身近な技術となったのも、こうしたパターン情報処理の分野が発展してきたからこそでございます。

 京都大学でこの分野に早くから取り組みましたのが、坂井 利之名誉教授の研究グループでした。坂井研究室で開発した音声タイプライタという、音声を符号化する装置,すなわち,直接コンピュータに音声で語りかけることができる装置は、世界の学会でも注目され、その後、しゃべる計算機へと発展して、広く国内のテレビなどでも紹介されました。こうした当時の様子は展示の中でご覧いただくことができます。こうしてまずは、人の声を聞き、やがてしゃべるようになったコンピュータは、まさに耳や口を獲得したことになります。その後、1970年の大阪万博では、コンピュータ天眼鏡と名付けられた人相判断のシステムが発表され話題となりました。つまり、目を獲得したコンピュータが登場したというわけです。

 その後、さらに前総長の長尾 真名誉教授、堂下 修司名誉教授の研究室が新設されてからは、三研究室が並行して、パターン情報処理の分野、すなわち、音声処理、画像処理、自然言語処理、および人工知能の研究へと発展させて参りました。これが現在の情報学研究科へと引き継がれています。

長尾 真 名誉教授

 今回の展示では、こうした歴史をもつ京大情報学の系譜を紹介しているだけでなく、さらにこの分野につらなる最新の研究成果のいくつかを、実際に体験していただくコーナーを設けました。博物館を訪れる若い皆さんが、こうした体験の中から、情報学の魅力を感じ取っていただければ、京都大学で自ら研究に携わりたいと思う方も出てくるかもしれません。今回の企画展がこのようなきっかけを提供することができればと願っております。また、この展覧会にちなんで行います公開講座にも、幅広い年齢層の皆さんから受講の申し込みをいただいております。

 こうして総合博物館で、京都大学が誇る情報学の世界を市民の皆さんに身近に体験していただく機会をつくることができたことを大変うれしく思います。この展示を実現するにあたり、ご尽力いただきました情報学研究科、学術情報メディアセンター関係者の方々や、デザイン・会場構成などを担当していただきました皆さんに感謝を申し上げ、私の挨拶といたします。

 ありがとうございます。