京都大学ウイルス研究所創立50周年記念式典 挨拶 (2006年5月29日)

尾池 和夫

挨拶をする影山所長

 本日、京都大学ウイルス研究所が創立50周年を迎えられるに当たりまして、京都大学を代表して、一言お祝いのご挨拶を申し上げます。

 ウイルス研究所は、今、影山龍一郎所長のお話にありましたように、1956年、昭和31年4月に、京都大学の附置研究所として創設されました。これは、戦後途絶えていた新しい研究所の一つとして創設されたものでありますが、名称にカタカナを冠する国立大学附置研究所は、当時としては大変珍しく、なかなかすんなりとは決まらなかったと聞いています。50年前、2つの研究室からスタートして、今では20以上の研究室を持って目覚ましい活躍をしています。

 ウイルス研究所は、「ウイルスの探求並びにウイルス病の予防及び治療に関する学理及びその応用の研究」を目的として設立されたものでありますが、この50年間、まさにウイルス研究で世界をリードしてきました。その多くの研究成果の中でも特筆すべきは、ヒト成人T細胞白血病ウイルスの発見であります。先程ご説明がありましたように、この疾患は九州や四国を中心に成人に発症するT細胞の白血病です。その原因ウイルスが、当時ウイルス研究所の教授であった、日沼 頼夫(ひぬまよりお)先生によって突き止められました。一連の研究によって、本疾患の診断、予防、治療法の開発につながりました。特に、この疾患が予防できるようになったのは極めて重要なことであります。また、このウイルスはエイズを引き起こすウイルスとも共通点があることがわかり、その後のエイズ研究に多大な影響を与えたのであります。

尾池総長

 一方、ウイルスは自己増殖する最も単純な生命の単位であり、分子生物学の出発材料ともなりました。ウイルス研究所は創立当時、我が国における分子生物学のメッカの一つとしての役割も果たしました。また、ウイルスを理解するには、その宿主をもよく理解する必要があるという観点から、生命科学研究も連綿と行われています。

 ウイルス研究所のもう一つの大きな特徴は、サルに対して感染実験を行える全国有数のP3感染実験室を持っていることです。ヒトへの応用を考えますと、マウスの実験ではどうしても限界があり、サルを使った研究が必要です。本研究所のエイズ研究施設や感染症モデル研究センターでは、サルを使って感染実験やワクチンの開発が精力的に進められています。学内外とも多くの共同研究がなされており、今後も積極的に研究交流の推進を図っていただきたいと思います。

 教育の面で、ウイルス研究所は、医学研究科、生命科学研究科、理学研究科、薬学研究科、人間・環境学研究科の5つの研究科の協力講座からなっており、多くの異分野の研究者が交流するという、非常にユニークな研究環境を生み出しています。5つの研究科からは常に、百名以上の大学院生を受け入れ、次代を担う世界トップレベルの若い研究者を育ててきました。更に、平成14年度からは、生命科学研究科と共同で21世紀COEプログラム「先端生命科学の融合相互作用による拠点形成」を進めており、ウイルス・生命科学の研究教育の拠点となっています。今後とも、異分野交流を活発に進めることによって、研究と教育に大きな貢献をされることを期待しております。

利根川マサチューセッツ工科大学教授

 20世紀になって、天然痘の撲滅宣言もあり、感染症はほぼ制圧できたと考えられた時期もありました。しかし、その後、エイズウイルスの感染爆発、新型肺炎SARS、トリインフルエンザ、エボラ出血熱などの出現があり、新興ウイルスは人類にとって大きな脅威となっています。まさにこのような事態に対応する役割で、昨年度、本研究所に新興ウイルス感染症研究センターが新たに設置され、新興ウイルス感染症の研究を精力的に進めているところであります。今では、ウイルス研究は人類の永遠の課題とも言われ、今後の益々の発展が期待されています。