低温物質科学研究センター、ダークマター・アクシオン探索実験棟完成のお祝い (2006年3月31日)

尾池 和夫

 低温物質科学研究センターにダークマター・アクシオン探索実験棟が完成したというニュースに接して、まず、関係の方々がずいぶんご努力なさってであろうと思いました。同時に、このようなお祝いの会が催されるということが、先端の基礎研究活動を教育に活かしていく京都大学の姿であると実感して、総長としてたいそううれしく思いました。心からお祝い申し上げます。

 ダークマターという言葉は、私が学生の頃には聞きませんでした。どんな波長の電磁波で観測しても検出できない物質であると、いろいろのところに書いてあります。しかし、存在するということは観測と理論の両方から示されていると言われます。暗黒物質が存在するかどうか、どれくらい存在しているかを測定することは、現代の天体物理学の大きな課題の一つであります。

 暗黒物質の存在を示すのは、銀河の回転速度が目で見ることのできる物質の量をもとに予測されるよりも速いことから、銀河の物質の90%が見えないものであろうと考えられます。また、銀河団が形成されているのは、銀河が重力で引き合っているからであるとか、いろいろの議論が行われているのが興味深いのですが、これを一般に市民に分かるように説明していただくのも、この課題に挑む京都大学の研究者の仕事になると思います。

 この暗黒物質を構成している物質の候補の一つが、アクシオンだというわけで、2001年頃には、京都大学化学研究所の松木 征史教授を代表者に、「ダークマターアクシオンの探索」という研究課題のプロジェクトも推進されました。その共同研究者には、政池 明(奈良産業大学)さん、山本 克治(京都大学工学研究科)さん、舟橋 春彦(京都大学物理学教室)さんたちがおられました。松木先生の最終講義が2004年に行われた後、このプロジェクトをどのように引き継ぐかという問題が京都大学にありましたが、水崎先生たちのご努力で、この低温物質科学研究センターに探索装置が完成したのであります。2004年度の低温物質科学研究センター研究成果発表会のプログラムの最初に、「ダークマターアクシオン探索実験」として、水崎隆雄、舟橋 春彦、松木 征史他の論文が発表されました。また、「Dark Matter Detector in Grunoble by using ultra-cold superfluid He-3」という題で、Yu. Bunkov, E. Collin, J. Elbs, H. Godfrin, and C. Winkelmann(所属:CTBT, CNRS-Grenoble, France)の発表がありました。

 この探索実験棟の完成によって、これから多くの若手研究者たちが参加し、また、「宇宙を満たす冷たい素粒子を地上低温実験で探す」というテーマで、理学研究科や理学部の教育の面でもこの装置が活かされていくことと思います。

 今日のこの祝賀会が、未知の問題に挑戦する基礎研究分野の研究者たちへの励ましとして、京都大学の特色の一面を示す記念碑となることを願って、また、いい研究成果が得られることを期待して、私の挨拶といたします。

 おめでとうございます。