公開講演/シンポジウム「映像が語るフロンティア精神 -京都大学フィールドワークの80年-」スピーチの概要 (2006年3月10日)

尾池 和夫

探検大学の将来像

鳴沙塔

 探検大学と呼ばれた京都大学の登山と探検の歴史は、1965年に東南アジア研究センター、67年に霊長類研究所、86年にはアフリカ地域研究センター、 91年には生態学研究センターと実を結び、97年に総合博物館、98年にアジア・アフリカ地域研究研究科、2003年にフィールド科学教育研究センター、 06年地域研究統合情報センターの発足と、今も次つぎに姿を整えている。一方、学外でも例えば南極観測などに見られるような京都大学の研究者の活発な活躍がある。

 これらはいずれもフィールドワークを特長をする京都大学の伝統を活かして生まれた、世界に誇る教育と研究の場である。その伝統は京都大学のあらゆる分野に浸透し、その成果は多くの著作物となって公開されているが、同時に、厖大なフィールドノート、資料、標本、映像、音声などの記録が残されている。その中から特に映像資料に焦点を当ててその保存を考えるのが今日のこの企画に期待している役割である。

 映像の記録は、世界を時間と空間の座標の上で切り取ることによって得られる。研究者の眼は宇宙をさまざまの眼で観ている。時間軸に沿って私たちは自分の生い立ちをアルバムに記録する。調査を展開してある課題で現象の地理的分布を知る。そして時間空間の座標の中で世界の変化を観察する。地球科学はあらゆる可能な手段で、人工衛星を打ち上げ、あるいは深海掘削船「ちきゅう」を建造して地球を観察する。宇宙物理学は、可視光のみならず、あらゆる手段で宇宙を観る。赤外線で、X線で、電波で観る。あるいは重力波を検出する。そして、ブラックホール、ダークマター、ダークエネルギーというように未知の問題を考える。

 このように、探検大学の異名を持った京都大学の伝統は、学問のあらゆる分野で、人類の財産と言える映像を記録していくのである。それらの記録をだれでもが見ることのできる仕組みを整えていくことも、京都大学の社会貢献の重要な部分であると思っている。