2006年名刺交換会 挨拶 (2006年1月4日)

尾池 和夫

尾池総長

 みなさん、明けましておめでとうございます。

 世界にはざまざまの国で多様な暦が用いられており、日本と同じ太陽暦の1月1日で新年を祝う国ばかりではありません。例えば、京都大学の外国人留学生の中で最も数の多い中国人学生が500人ほど、京都大学で学んでいます。太陰太陽暦では、今年は立春より早い太陽暦の1月29日が太陰太陽暦の1月朔日にあたり、この日が春節です。2月3日が節分で2月4日が旧正月節ということになります。中国では春節から元宵節までの15日間の中で1週間ほどの、1年中で最大規模の休暇期間があり、太陽暦では毎年変化します。

 またシンガポールやマレーシアのようにさまざまの暦を持っていて、年に4回も正月を迎える国もあります。国際化を目標としている京都大学では、このような多様な民族の生活習慣も今後は考えていかなければならないと私は思っておりますが、今のところ太陽暦の正月で新年を祝うことになっています。

 明治の初め、1872(明治5)年11月9日、突然太政官達(たっし)第三三七号が出され、太陰太陽暦から太陽暦への変更が決まりました。明治5年12月3日を新暦明治6年1月1日にするものでしたが、すでに刷り上っていた明治6年のカレンダーはすべて刷り直しとなりました。旧暦のままだと明治6年は閏月を入れる年で、政府は月給を13回払うことになっていたのが、突然の改暦の理由だったと思われます。

 いつの世でも、政府が急激な改革を実現しようとする背景には、かならずこのような予算支出の差し迫った問題があるのです。今の「改革を止めるな」というかけ声のもとで行われる総人件費削減の方針も、差し迫った予算支出の実情によるもので、大学にも大きな影響をもたらすものです。

 新年を迎えて、私は昨年の1年を、あらためて振り返ってみました。多くの困難がありましたが、それらを皆さんのご努力とご協力で乗り切ることができたと思います。

 京都大学の規模は、2005年4月1日で常勤の教職員数が5,190名、学生数が22,644名、研修員などが396名、2004年の大学病院の病床数1,240床、入院患者約36万5千人、外来患者約57万2千人でした。

 法人化で国から継承した蔵書数が、6,017,630冊で、この、本がたくさん継承されたということが、他の独立行政法人などと国立大学法人の大きな違いとなったものです。もちろん継承した財産の中には土地もたくさんあります。京都大学の土地の面積は49,125,186平方メートルで、甲子園の面積を1として換算すると、3341.85個分となります。建物は1,132,179平方メートルありますが、老朽化した物が多く、耐震工事が急がれています。

 学生のことを少しくわしくご報告しておこうと思います。昨年は、2月17日に、授業料の改訂を発表しなければならなかったという、たいへんつらいことがありました。

 3月1日には、平成19年度入学者選抜における学力検査実施教科・科目等について発表し、後期日程の共通問題を廃止した結果、すべての学部が募集定員を前期に一本化し、後期の入学試験を実施しないことになったということを説明しました。

杉本さんと

 6月28日には、杉本 明洋さんが世界陸上選手権出場の決定を、総長室へ報告に来ました。8月にヘルシンキで行われる世界陸上選手権の男子競歩20キロの日本代表に選ばれ、壮行会を時計台記念館前で開催しました。

 夏休みの最後には、吉田南正門前広場で吉田南教室使用サークル連盟主催、高等教育研究開発推進機構及び共通教育推進部後援による「吉田南サークルフェスティバル」が開催され、特設ステージが設けられました。これも学生たちが私の所へ報告に来てくれました。

 3回の国際シンポジウムが昨年ありました。生命科学をテーマにシンガポールで、農業をテーマに北京で、地域研究をテーマにバンコクで開催しました。東アジアで現地の多くの専門家を巻き込んで、京都大学の大学院生たちが活発に研究を発表する場とすることができたのが何よりでした。私もフィールドワークで活躍するたくましい学生たちの姿に感激しました。

 学生の提案で私も一緒に考えた15種類のカレーを提供するという生協の行事の宣伝効果は抜群でした。ネットワークに乗ったお陰で、京都大学のウェブサイトのアクセス数が普段の2倍になるという経験をすることができました。

 キャンパスミーティングも第9回になり、各部局の学生たちの声を直接聞くことができました。また、熊野寮の年末のコンパにも呼んでもらって、おいしい鍋料理を楽しみながら騒ぎましたが、中には国民投票法案を学習して反対しなければというような議論を熱心に呼びかけてくる学生もいました。

 体育館のアスベストの使用が判明しました。実際の測定値は大きくなかったのですが、クラブ活動や授業に大きな影響が出るとはいえ、いずれ処置しなければならないこと、花折断層が動けば震度7になる可能性のある地域でもあり、放置できない問題ですので、体育館の使用を禁止して改修することを決断しました。その際、近隣の小学校などから、大きな協力が得られましたが、それが京都大学の学生たちの日頃のボランティア活動などを高く評価したこともあって得られたものと聞き、たいへんうれしく思いました。

 このようなさまざまな学生の活躍と元気な姿を見ることができたのが、私にとってたいへんうれしいことでした。

 産学連携も法人化して大きく進展しています。昨年は、1月25日に、「京都大学-清華大学産学連携について」を発表したニュースから始まりました。京都大学の特許出願件数は、平成14年度で24件でしたが、平成16年度には274件となりました。

 昨年7月15日には、文部科学省の「スーパー産学官連携本部」に本学提出の事業が選ばれました。この事業は、文部科学省が行う大学知的財産本部整備事業の一環で、知的財産本部を核としての発展をはかるものです。

AEARU

 国際協力の出来事もいろいろありました。昨年5月13日には、AEARU(東アジア研究型大学協会)理事会を開催し、その際、中国、韓国、香港、台湾の理事校4大学との学術交流協定を締結しました。また、7月29日には、国際連合大学と大学間学術交流協定を締結することとなり、ハンス・ファン・ヒンケル学長と協定書に署名して調印式を行いました。

 8月31日から9月2日には、APRUとAEARUの初めての合同リサーチシンポジウム「環太平洋地域における地震危険度-その予測と防災-」を京都大学で開催しました。

 キャンパスの整備では、4月8日に桂キャンパス福利棟竣工披露式を開催し、5月27日には、ローム記念館竣工式典を実施しました。8月16日の五山の送り火を、伝統音楽とともに鑑賞する会をこのローム記念館で行い、多数の方々が楽しんでくださいました。またこの日、百万遍の石垣カフェと呼ばれて市民に注目されていた櫓も自主的に撤去されましたが、この百万遍門の改善については、学生たちとの話し合いによって、石垣や樹木を可能な限り保全する案によって進められつつあります。

 9月28日には、京都市立芸術大学と大学間交流に関する覚書を締結しました。11月19日には、百周年記念ホールにおいて、京都市立芸術大学の教員、院生によるオペラが上演され、大好評でした。

 厳しい情勢の中で、関係者のたいへんなご努力によって、新しい年度に向けていくつかのことが進んでいます。大学院公共政策教育部公共政策専攻(専門職大学院)の設置が認可され、法学研究科と経済学研究科の全面的支援のもとに準備されています。

 また、大学院経営管理教育部経営管理専攻(専門職大学院)の設置が認可されました。薬学部の改組で薬科学科50人、薬学科30人が認められました。17年度からくり越されていた医学部保健学科の学年進行分の教員も5名も認められました。

 京都大学地域研究統合情報センターの新設が行われます。これは、地域研究における国内外の研究推進と情報拠点としての役割を果たす全国共同利用施設として設置するもので、関連研究機関と連携した地域情報資源の共有化を図り、情報技術を応用した新しい地域情報学の分野を開拓して、グローバル化に対応した地域横断的な相関型地域研究推進を目的とするものです。

 また、今年度の補正予算で、アスベスト対策経費が認められ、ほっとしています。

 特別教育研究経費では継続16件、新規5件で、その中には霊長類研究所の「リサーチ・リソース・ステーション」で、研究用のサルを自然に近い環境で創出し育てるというプロジェクトも含まれています。

 最初に申し上げたように、国立大学をめぐる社会情勢はたいへん厳しく、第1期中期目標期間に実現すべき多くの課題がありますが、京都大学の教職員はそれに向かってたいへんな努力をしており、優秀な学生たちが研究に学習に日夜励んでいます。今年も京都大学のミッションをしっかりと心にとめて、学問の伝統を守り、必要な改革を進め、社会貢献の役割を果たしていく国立大学であるよう、私も精一杯の仕事をしていく所存であります。

 今年も、まずはみなさん方がご自分の体をいたわり、健康な一年を過ごすことに心がけていただきたいと思います。その上で、教職員の方々には力一杯の仕事をお願いし、先輩方にはそれを見守り、かつ励ましていただくようお願いしつつ、私の新年の挨拶といたします。

 ありがとうございました。