「ナノメディシン融合教育ユニット」の開講にあたって (2005年10月4日)

尾池 和夫

 本日、京都大学は新しい教育プログラム「ナノメディシン融合教育ユニット」を開講する日を迎えました。この記念すべき日に、ユニット履修生として入学された社会人42名のみなさん、おめでとうございます。

 文部科学省から特にご列席頂きました河村科学技術・学術総括官、並びに松重ユニット長、荒木工学研究科長、成宮医学研究科長、中辻再生医科学研究所長を始め、「ナノメディシン融合教育ユニット」の活動を支える独立行政法人科学技術振興機構のプログラムオフィサー、多くの本学教職員とともに、心からお喜び申し上げます。

ナノメディシン融合教育ユニット

 「ナノメディシン融合教育ユニット」は、平成17年度文部科学省科学技術振興調整費による新興分野人材養成プログラムのひとつとして採択され、京都大学大学院医学研究科の各課程及び工学研究科の修士課程と博士課程に在籍する大学院学生を対象とした教育プログラム、並びに社会人を対象とした再教育プログラムを併せて実施することになっています。
 近年、ナノテクノロジーとライフサイエンスを中心とする異分野の融合が世界規模で著しく進展し、「ナノメディシン」と呼ばれる、高度先端医療に関する新興分野の研究に大きな注目が集まっています。京都大学の「ナノメディシン融合教育ユニット」は、医学研究科、工学研究科及び再生医科学研究所が連携し、「ナノメディシン」に関する大学院レベルの講義及び実習プログラムを京都大学の大学院生、さらにもっと広く社会人にも提供することにより、ナノテクノロジー、バイオサイエンス、医療などの分野で「ナノメディシン」の研究を推進し、基礎から応用まで広く問題解決に当たり得る、高度な能力を備えた研究者・技術者の育成を目標にしています。

 学術や技術の創造と発展には、既存の学問分野を継承し深化することのみならず、常に新たな発見と知識の蓄積を通じて、未来に繋がる新しい学問分野を開拓し続けることが不可欠です。そのためには、異なる学問分野の出会いと融合を促進するとともに、新興分野の発展を基盤から支えるべき優れた人材の育成が求められます。多様な学問分野と豊富な人的資源を誇り、卓越した総合研究大学として国際的に広く認知されている京都大学こそは、「ナノメディシン」に代表される多様な新興分野の教育プログラムを担うに相応しい大学であると自負しています。

 みなさんは、すでに社会人として、これまで研鑽を重ねてきた専門分野で活躍されていますが、新時代の社会的要請に応えんとして、医工連携の「ナノメディシン」分野の研究開発に関心を持たれ、それぞれの専門分野のフロンティアラインに立つために、あるいは専門分野の方向を転換して未知の新興分野への転進を図るために、「ナノメディシン融合教育ユニット」の履修生となる道を選択されました。この選択がみなさんのキャリアアップと同時に、「ナノメディシン」の研究活動を通じた社会貢献に繋がることを祈って、入学をお祝いします。

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は、3日、今年のノーベル生理学・医学賞を西オーストラリア大学のバリー・J・マーシャル教授(54)とオーストラリアのJ・ロビン・ウォーレン医師(68)に授与すると発表しました。授賞理由は「ヘリコバクター・ピロリ菌の発見と胃炎、胃・十二指腸かいようにおける役割の解明」であります。この発見によって、ピロリ菌を胃から根絶することにより、完治出来ることが示されたのでありますが、このピロリ菌を根絶することも、皆さんの目標となる一つの例になることでしょう。生理学・医学の研究成果との出合いによって、ナノメディシン融合教育ユニットが威力を発揮するのを期待し、皆さんのご活躍を私も心から期待するものであります。

 皆さんも、まずは健康第一に学習と研究に励んでください。京都はこれから紅葉のきれいな秋を迎えます。この芝蘭会館の前の道は、昔、都の人たちが近江へと山越えで歩いた志賀越道です。皆さんはたいへん忙しい毎日を送ることでしょうが、それでも研究活動の合間には、古都京都の世界遺産などにも触れながら、秋の京都を散策して、心身のバランスを整えて頂きたいと思います。

 「ナノメディシン融合教育ユニット」の履修生となられたみなさんが、「ナノバイオマテリアル」コース、「ナノデバイス」コース、「生体イメージング・ターゲティング」コース、及び「生体機能シミュレーション」コースがそれぞれ指定する基礎科目と実習・演習科目のほか、医学系概論科目、発展科目として医学研究科と工学研究科が提供する大学院科目、さらに現役の臨床医やバイオサイエンスの研究者たちが直面している未解決課題に合同で取組み、解決に当たる課題解決実習科目を修得され、「ナノメディシン」分野におけるフロントランナーに育たれんことを祈って、私のお祝いの言葉といたします。

 入学おめでとうございます。