京都大学ヨット部創立70周年を祝って (2005年5月15日)

尾池 和夫

尾池総長

 ダークブルーヨットクラブ会長の天野 殖さん、京都大学体育会ヨット部部長の林民生さん、70周年記念祝賀会実行委員長の村上 健治さん、そしてたくさんの歴代ヨット部とご関係の皆さん、京都大学ヨット部の創立70周年、まことにおめでとうございます。OBの中には西島 安則先生もおられます。伊藤 靖彦先生にも今お目にかかりました。京都大学の歴史をまた新しい面から見ているという実感があります。

 ここにお集まりの皆さまとちがって、私自身は、ヨット競技には、というよりも運動競技にほとんど縁のない人生を送ってきましたが、私は俳句を詠みますので、ヨットやヨットレースというのは夏の季語で、夏の3ヶ月を通して詠める季語というふうに心得ております。

 例えば、俳人たちは

ヨット出て乗りざりし一人歩をかえす  波多野爽波
ヨットの帆たゝみて棒となりにけり  藤野智寿子

 また、今日の会場であるこの琵琶湖は、昔から芭蕉をはじめとして俳人たちが親しんきた自然であり

蒼翠を穿ちて白き夏の湖  富安風生

 というように詠まれています。

 あるいは、私の専門である地球科学の分野から琵琶湖を見ると、神戸の六甲山と同じ、典型的な活断層地形が、この景色特徴として映ります。活断層運動があるからこそ、この琵琶湖が生まれ、皆さんのヨット競技の場となったのです。

扇状地月の琵琶湖へなだれ込む  尾池 和夫

 このように、ひとそれぞれの見方で、琵琶湖があり、ヨットレースがあるということであろうと思います。

当日の様子

 今年も、たくさんの新入生が、新緑の比良山系のもとで、琵琶湖の夏を謳歌しはじめていることでしょう。1枚のビラから、試乗会の体験から、あるいは海に浮かぶ白帆への憧れから、ヨット部へ参加して来ていると思います。私が京都大学に入学したときにも、友人がロープをいつも持っていて、柱があると練習を始めるという様を見ておりました。やがて九州で、七大学総合体育大会です。今年こそとご検討を祈っています。

 国立七大学OB戦も、同じく、九州大学ヨット部OB会主管で、7月9日(土曜日)、10日(日曜日)に福岡小戸(おど)ヨットハーバで行われます。

 京都大学ヨット部の歴史は、1935年5月26日付けの京都帝国大学新聞(PDF)に、「ヨットクラブ生る、7月琵琶湖一周を目指して、6月2日練習を開始」という記事が掲載されていて、そこに始まると言えます。「琵琶湖を指呼の内に有する本学に今まで無かったのが不思議なくらい」と書かれており、ヨットクラブが待ち望まれて創設されたものということが、よくわかります。

 日本が国際連盟を脱退したのが、1933(昭和8)年、その年に京都大学で起きたのが滝川事件であります。

オリンピックオーク

 また、1936(昭和11)年には、ベルリンオリンピック三段跳びで、経済学部卒業生の田島 直人さんが世界新記録で金メダル、法学部卒業生の原田 正夫さんが銀メダルを獲得しました。田島 直人さんが記念に京大に持ち帰った苗が、北部構内の北西の角に、オリンピックオークとして育っています。

 今年、戦後60年で、京都大学文書館にもお願いして、京都大学の学徒出陣の歴史も調べていただいておりますが、学徒出陣でヨット部からも何人かが出征して、帰らぬ人となったと伺っています。

ヨット

 昭和33年ご卒業の喜利 元貞さんのウェブサイトの手記によりますと、1957年当時、湖西線はまだなくて、湖北は、湖岸を走るバスが日に数本、という陸の孤島の状態で、そこに突如現れた京都の学生たち 30名は、眺めるに値する賓客であった、と書かれています。はだしで歩いていると、下駄を貸してあげましょうか、と言われ、おふろに入りませんか、と誘われた仲間もいたそうです。子どもたちと仲良くなって、ヨットに乗せたりしました。湖西線が開通して、村の北部に「永原」駅ができたのは、その十数年後だったと、当時のことを振り返っておられます。

 さまざまな歴史を経て、今年、70周年を迎えられました。歴代の部長、部員のご努力、熱心なOBの方々のご支援など、関係の皆さまのもたらされた輝かしい歴史に、心から敬意を表すものであります。

 先ほどから、いろいろと教えていただきながら、このビアンカのデッキから私もあらためて、新緑の活断層地形を見ております。その湖岸の艇庫が左手に見えました。今日のような風速8メートルくらいの、やや強い風がヨット競技にはいいのだと、そして風上へ向かって帆走するのだと教えていただきました。それを詠ませていただきました。

青嵐艇庫は九時の方向に
ヨットレースやや強風を佳しとせり

歓談の様子

 大学では、教育と研究に加えて、学生が自主的、自立的に行う課外活動が重要です。ヨット部のますますのご活躍をお祈りいたしますとともに、先輩の皆さま方のご声援、ご支援をお願いし、ダークブルーヨットクラブの今後の発展を心から願って、また、京都大学ヨット部のご検討を祈って、私のお祝いの言葉といたします。

 おめでとうございます。

 (琵琶湖、ビアンカのデッキで)