第22回天城学長会議に出席して (2004年7月23日~25日)

尾池 和夫

 今回のテーマは、「高等教育再考-知の時代における大学像を考える-」で、全国の国公私立大学長48名が参加しました。京都からは立命館大学長の長田 豊臣氏と私でした。携帯電話の通じない天城高原にこもって3日間、先輩学長たちと議論するのも、学習できていいものです。

 世界で進む高等教育改革の中で、日本の改革は、科学技術創造を基盤とする国家戦略を推進してきました。しかしながら、世界に通じる人材を育成する教育システム、世界に通じる高等教育プログラムを持つことが国際的優位性に重要であるという位置づけが不十分である、という認識が基調となった会議でした。

 天野 郁夫氏の基調講演「高等教育再考-新しい大学像の模索」では、大学改革の流れをたどって、大学の個性化の時代にいるという認識をもとに、大学の個性化への選択肢を、3つのコンフリクトに表現しました。1つは、共同体主義と経営主義、2つ目は、教育主義と研究主義、3つ目は、教養主義と職業主義です。1991年に教育重視をとなえ、それが十分進まないうちにまた研究重視へ移行し、現実には学力不足が大学側から指摘されるようになりました。古典的教養像が崩壊して新しい教養教育像が出てきていないことなど、様々な角度から論じた後、これからの大学像を描く必要を話されました。

 日本の大学はきわめて多様であるというデータを表で示し、その表の中で自らの位置を確認していくことが必要と述べられました。大学と短大の収容力と志願者数が同じになるのは、今まで2009年と言われていましたが、その予測が2007年になったというデータも示されました。

 お話の中で、入学試験については「ほとんど崩壊している」とだけ触れられたので、その発言の趣旨と初等中等教育に関する見解について、国立大学協会の入学試験委員長でもある私は質問しました。

 夕食の後も、ロビーに飲み物が用意されて、23時までそこでさまざまな議論を展開します。国立大学の学長たちの話題には、法人化して今後どのように大学を守っていくかということがありました。

 2日目、総合討論の後、オリックス株式会社の宮内 義彦氏の講演は、企業人の立場から大学経営に関して遠慮なくものを言うという趣旨でした。宮内氏は規制改革・民間開放推進会議の議長でもあります。企業の目的は効率よく財を得ることにあり、その目的を達成するための学問体系が経営であるという考えを示し、それとの比較において、大学の目的が明らかになると、そのための経営が成り立つと言われ、3ヶ月ごとに評価されて株価が動くオリックスの場合に比べると、「あまりにもごまかしがきくサービス産業」と、大学のことを表現されました。講演の後は、マーケティングの原理に会わない面が大学にはあるという相澤 益男氏たちとの議論になりました。世話人のご苦労で、実にいい二人の基調講演の組み合わせでした。

 東京工業大学長の相澤 益男氏は、激変する高等教育環境を分析し、事前規制から事後評価の狭間にいるとして、国立大学の法人化は大学マネジメント改革と位置づけ、その後の分科会での議論の糸口を世話人として述べられ、2日目の午後は、それまでの講演と議論を踏まえて、4つの分科会に分かれて討論を続けました。私は第4分科会に出ました。会津大学長の池上 徹彦氏と日本女子大学長の後藤 祥子氏が世話人で、21回出席したという金沢工業大学の黒田 壽二氏ら、そうそうたる論客揃いの分科会で、14時から17時半まで休憩なしに議論しました。

記者会見の様子
記者会見の様子

 分科会では私も、先日、長田立命館総長、八田同志社大学長と3人で記者会見した話をして、GDPの1パーセントまで教育費の国の負担を増額することを要求したという話をしました。それに対して、増やした0.5パーセントの使い道を具体的に示そうと、みなさんから貴重な意見が述べられました。

 3日目の総合討論では、4つの分科会の報告がなされた上で全員で討論しました。その中で、高等教育への国費の支出を増やす必要が議論され、それをどのように社会に理解してもらうかを考えました。いくつかの重要なポイントがありました。例えば、地域の発展は良い大学に始まり、地域は大学に物心両面の支援をする必要があるということに理解を求めること、大学とはキャンパスライフを通して人の可能性、潜在能力を開花させる所であること、企業を経験した学長からは、大学からもっと企業へ出かけるべきだということ、若い人材を大切にするために人件費を必要とすること、などなどです。

 この天城学長会議の報告書がいずれ出版されます。また、今までの報告も出されています。この会議は、世話人の計画にもとづいて課題が決められ、日本IBM天城ホームステッドに招待された学長たちが、その課題を中心に議論します。国公私立大学の多くの学長たちが気兼ねなく自由に討論できる唯一の場ではないかと思います。

 3日間、かねてよりぜひ話したいと思っていた方に会い、個人的な交流が促進され、懐かしい方に思いがけず出会ったり、あっという間の楽しい3日間でした。