法人化にあたっての総長挨拶 (2004年4月1日)

尾池 和夫

おはようございます。本日、私は、国立大学法人京都大学総長に就任いたしました。就任にあたり、京都大学の職員のみなさまに、ご挨拶申し上げます。

今朝、私は、新任の役員、部長、副学長、部局長などの方々に辞令を交付しました。京都大学は、新しい制度のもとで、新しく発足しました。そのことを、まず、みなさんの前で宣言し、同時に、マスメディアを通して、世界に宣言いたします。

昨日、23時20分、過半数代表者との協議が終了したという報告を受け、私は、今日の新しい京都大学の発足の準備が完了したということを確認いたしました。本間政雄事務局長による最後の、丁寧に書かれた報告書でした。

今日のために、不眠不休で準備を実行してくださったみなさんに、まず感謝いたします。人事課を中心に動く、昨日までの仕事を拝見しておりました。労使双方から伝わってくる熱意の中に、今後の京都大学の発展のために、たいへん力強いものを感じました。それは同時に、多くの解決しなければならない課題があることを再認識するものでもありました。本当にありがとうございました。

この京都大学で、もっとも重要なのは学生であります。今日から、学生納付金を直接大学へ納めていただきます。その学生たちにいろいろな場面で接する職員のみなさんに、学生たちへのサービスを向上させることが、直接的に求められます。

大学は、高等教育を受ける権利を保障し、研究の成果を社会に還元し、人類の平和と福祉の向上に貢献するという責務を担います。その責務を果たすことが、大学の自治と学問の自由を保障されるための条件です。京都大学は、私立公立国立を問わず、多くの大学との協力のもとに、この責務を果たします。

大学は、社会に奉仕するものですが、その内容は、形をともなうものではありません。知の生産、知の蓄積、知の伝達というように、目に見えないものを、高等教育という場で社会に還元します。その結果が社会でどのように現れるかということも、大学はよく研究しながら、社会に貢献します。

大学の研究は、産業界から注文されて生産するものではありません。政府の要請に直接応じるものでもありません。大学の価値観は、ときとして社会の価値観と一致していないこともあるでしょう。そのずれも健全な国の姿であるという認識を、京都大学に勤める教職員のみなさんは、しっかりと持っていてください。

多くの課題が待っていますが、失敗をおそれない職員であってほしいと思います。失敗することによって、人は反省し、そこから学んで成長します。反省無くして進歩はありません。失敗をおそれていると仕事が消極的になり、新しいことを実行することが出来ません。

新しい制度のもとで、役員会が決定権を持つということは、責任も持つということです。みなさんが失敗をしても、それが学生へのサービス向上を目指したものである限り、その責任は私が取ります。よく考えて信じるところを実行してください。

職員は方針の決まっていることを、決まったとおり実行するだけではなく、現場で気づいた不備を、また、思いついたアイディアを、積極的に役員へ伝えてください。それによって、どんどんサービス機能が向上して行くという大学でなければなりません。

市民の目が、新しい京都大学を見ています。いろんな課題がありますが、一つひとつ、みなさんと一緒に実現していきたいと思います。一日の仕事は、8時30分までに頭の中で確認しておいて、新しい就業規則を守り、17時15分までに一日の仕事を残さず済ませるよう、それではさっそく、本日も仕事に就いてください。