2004年御用始め 挨拶 (2004年1月5日)

尾池 和夫

あけましておめでとうございます。

みなさんがたのご協力で、良い年を迎えることが出来ました。今年もまた一年、健康に気をつけて、よろしくお願いします。

穏やかな天候とともに、初日の出を迎えた元日でした。南鳥島で5時27分、京都で 7時05分、 与那国島で 7時32分でした。日本列島は長いので、1時間半以上の差があります。

今年、最初に見たニュースは、アテネの広場で迎える新年の光景でした。日本の朝7時、アテネでは0時です。今年は、アテネで第28回オリンピック競技大会が開催されます。競技は、2004年8月13日から29日までです。古代オリンピックが終わって以来1500年ほどの時間のおいて、近代オリンピック競技が始まりました。最初の大会は、やはりアテネで開催されました。

その大会の次の年、1897年に京都帝国大学が創設されました。入学資格は、やはり男子だけでした。

今年最初のニュースの次のニュースは、バグダッドからで、市内で爆発があり、死傷者がありました。その次は火事。住宅が全焼して3人が死亡。イランの震災で、死者は4万人に達するそうです。日本からの医療支援が始まっています。郵政事業の民営化。秋に経済財政諮問会議で最終報告をまとめるという方針です。つぎは財政。義務教育の教員の給与に影響が及ぶ可能性が出てきました。国立大学の法人化と並んで、日本の教育の危機であります。

ニュースの後、テレビで能楽を見ました。宝生流の「羽衣」でした。この時間の流れが、京都の、そして京都大学の文化の流れであり、それを保たなければならないと思いました。ニュースや能楽のように、さまざまな面を抱えて、これから京都大学でも新しい一年が始まるのだ、そう思いながら元日の朝を、私は過ごしました。

総長に就任して初めての新年を迎えました。先ほど、諸先輩や同僚の方たちを前にして、また評議員、部局長をはじめ諸先生方のご出席を得て、年の初めの挨拶をさせていただきました。これは、私にとって、たいそう名誉なことであり、たいそう緊張することでもありました。

新年のあいさつとして、総長就任にあたっての、私の基本的な考え方を申し上げて、ご批判を仰ぎ、また、ご指導を賜りたいと申し上げてきました。

第1に、自由の学風を継承し発展させ、自学自習を基本とするという大原則を、あらためて肝に銘じておきたいと思います。この方針を貫いていくためには、今年迎える国立大学法人化も、あるときには、我々の大原則を守り発展させるために大いに役立てることもありますが、ときにはその伝統を守るための妨げになる可能性もあるということが言えます。

今年4月1日には、私は新しく設置される京都大学の総長に指名されることになっています。その後、法人法の趣旨によって、リーダシップを発揮するよう求められているわけですが、それに関して、京都大学では、ボトムアップを基本として、それにもとづく総長のリーダシップという方式を基本にしたいと思っています。部局の自治を基本とする京都大学の伝統には、107年の京都大学の歴史の中で築かれてきた、学問の自治の重要な基本があると思います。部局長会議での議論をもとに、さまざまのことを考えていく運営方法を大切にしなければならないと考えています。時間がかかりますが、結局はその結果がしっかりと定着していくと思っています。

法人化を間近に控えて、具体的にお願いしておきたいことがあります。この大学の名称であります。封筒を作ったり、業者に何かの発注をするときには、名称を必ず京都大学としていただきたいと思います。先行の独立行政法人の例にならって、国立大学法人京都大学というような長い名を付けたり、間違って独立行政法人京都大学などという名称を印刷しないように気を付けてほしいということです。ぜひ全学にこのことを伝えてください。

これから急ピッチでいろいろの決定がなされます。さまざまの変革がありますが、その基本的な考え方の重要なポイントは、できるだけ急激な変化を大学の中に生まないようにするということです。また学生や教員、職員の皆さんに不利になるような変更を避けるということです。これを基本にして制度を決めていきたいと思っております。その基本に立って、なおかつ職場の環境が変わり、組織が変わるというようなことが必要となるでしょうが、その点に関して、皆さんのご理解とご協力をお願いします。

法人化すると、評価を受けることを意識してさまざまのことを実行します。そのためにいろいろの仕事が増えます。それにも皆さんには対処していただく忙しい毎日になります。

社会の評価をしっかりと得るためには、大学の中身を詳しく、正確に、迅速に、社会に見せる努力が大学の側に必要です。そのためには広報の機能を大幅に充実することが必須の条件であります。大学を市民に理解してもらうことが重要です。

どうか皆さんも社会に向かって、できるだけわかりやすい言葉で、仕事をしてほしいと思います。御用始めというのを仕事始めと言い換えることを意識するのも、私のそのような準備運動の一つであります。教官でなく教員に、事務官でなく職員に呼び変えていくことが必要になります。

ちなみに、今、京都大学のホームページで様という字を使っているのは、附属病院の患者様という入り口があることぐらいだと思います。できるだけ市民の言葉で仕事をするということを心がけていただくようお願いします。

新年が、皆様方にとって、よい年であることを願って、また、今年も健康に過ごしながら仕事に励んでくださるよう祈って、年始の私のあいさつといたします。

ありがとございました。