本部職員へのあいさつ (2003年12月17日)

尾池 和夫

 昨日、文部科学省で辞令をいただいて参りました。そのことをまずご報告して、これから3ヶ月半の任期を勤める覚悟をお伝えしておきたいと思います。来年の4月以降については、一応私が引き続き総長を勤める方針として、京都大学では平成20年9月末までの任期を定めております。しかしながら法人化後の交付金の考え方に関して、現在まだ国立大学協会の執行部を中心に政府に対する申し入れが行われており、その結果によっては職を辞しても抵抗するという内容の文書に長尾前総長が署名しておりますので、場合によっては変化があるかもしれません。

 まず1番に皆さんにお願いすることがあります。私は比較的小心者であります。今朝も早朝の4時頃に前がさめて、今日のこの挨拶のことが気になって眠れなくなり、手元の本をとって読んでおりますと、阿部牧郎さんのエッセイがありました。「本来大物が立つべき責任ある地位に小物が立つと、ろくなことにならないのである」と書いてありました。

 困ったなと思いましたが、小心者が小物とは限らないと言い聞かせておきました。これを大物にしておくお手伝いを皆さんにはお願いしたいと思います。迅速で的確な判断と決断がこれからの大学運営には求められます。それができるためには、正確で迅速なしかも絞り込まれた情報の提供が必要です。それが皆さんの一人一人に分担していただく仕事のポイントになります。この課題に関しては自分しかいないという自覚の元に的確な情報をすばやく私に提供していただくことをお願いします。

 私は理学出身で経理がなかなかわかりません。先日、金城さんが「それを正確にわかるように説明するのが私の仕事です」と明快にいわれました。たいへんたのもしく感じました。それで私も仕事ができる確信しました。

 大学は膨大な数の中小企業や零細企業を抱える団地のようなもので、その全体の管理を本部はやっているのであります。零細であっても中小企業であっても、そこにいる研究者たちは、皆が大物です。確信を持ってその分野の世界一を目指しています。研究成果という産物を世界に出荷し、また学生たちを教育して次の世代の跡継ぎや別の分野の創設をはかっています。そんなたくさんの大物を束ねて京都大学という大きな船の舵取りをするのが私の仕事です。よほどうまく舵取りをしないとその船は動きませんし、まちがうと難破します。この舵取りのために、持ち場の分担を確実に実行していただきたく存じます。

 次に情報の共有ということです。同じ情報を構成員が持つことによって、同じ土俵で物事を考え、意見を交換していくことが必要だと考えます。総長のリーダシップという言葉が盛んに使われていますが、それはボトムアップによるリーダシップでなければいけません。企画と基本的な方針は皆の意見を交換しながら組み立てるものであり、それには時間がかかります。長い間に積み上げられてきた伝統が京都大学にはあります。それを急激に変えないように配慮するのが、ボトムアップを基本とするリーダシップを実現する一つの方法だと思っています。

 さらに、学生のことを話します。京都大学には5月の資料で、21,532名の学生がいます。

 もし皆さんが3年間今の部署にいて今の仕事をしているとします。その間に皆さんは多くの同僚のあるいは後輩のあるいは先輩、とくに上司の顔と名前を覚えることでしょう。その間、いったい何人の学生の顔と名前を覚えるかということ、それが学生のことを考えて仕事をしてきたかどうかの評価基準だと思います。学生は入学してまず職員に出会います。そして4年間、あらゆる場面で職員に出会って卒業していきます。そこでの印象は、彼らの京都大学という大学の印象になります。そのことを常に忘れずに勤務していただきたいと思います。

 総長からのメッセージに、京都大学についてのご提言、ご質問を総長室へお寄せくださいということを入れました。一つひとつに返事することはできない場合もありますが、大学の運営のための参考にさせていただきたいと思っています。