平成14年6月18日 京都大学創立105周年記念式典式辞

平成14年6月18日 

 本日ここに京都大学創立105周年の記念日を、元総長、名誉教授の諸先生、各部局長、および教職員の皆様とともにお祝いできますことは、私の喜びとするところであります。

 本年も例年にしたがい永年勤続表彰として勤続20年の職員44名、勤続30年の職員46名の皆様方を表彰いたしますが、皆様方には教官と学生の両方に目くばりをしながら、いろいろと苦労し、京都大学の発展のために貢献して来て下さいました。まことにありがとうございます。心から感謝申し上げます。

 

キャンパスの整備

 去る4月には本部事務局棟が完成し、時計台を百周年記念館に改修する工事が始まりました。このほかにも総合人間学部構内、北部構内、医学部構内等においても幾つもの建物を建築中でありますし、桂キャンパスも年末には第一期工事ができあがり、来年4月からは工学研究科の化学系6専攻と電気系2専攻が移転し、本格的な教育研究活動に入ります。工学研究科の移転に伴って空く建物は順次改修し、いろんな部局に利用していただくよう本部構内の再配置計画もほぼ定まっております。

 こういった機会に、私どもはあらためて建物を始めとするキャンパス全体をできるだけきれいにし、快適な気分で教育研究をし、仕事のできる場にするべく努力をする必要があると存じます。こういったことは大学の構成員全てが自分達のキャンパスは自分達の手できれいにするのだという自覚を持ち、ごみを出さないようにする、見つけたごみは拾うといった具体的な行動をすることが大切であります。去る3月には京都大学環境憲章を制定し、全学に対して環境改善活動を呼びかけておりますが、それぞれが日常的に出来る、省電力、省資源、廃棄物の削減、汚染防止などから始めて、活動の環を多方面に広げてゆく必要があるでしょう。ご協力をお願いします。

 

国立大学法人化

 さて皆さん既にご承知の通り国立大学法人化についての文部科学省調査検討会議の報告書が去る3月26日に出され、4月3日には文部科学大臣が国立大学長会議を招集し、2年後、すなわち平成16年4月に法人へ移行することの意思表明をしました。これを受けて国立大学協会は4月19日に臨時総会を開き、法人化に向けた作業に入ることにしております。

 京都大学においても昨年の秋以降部局長会議の下にワーキング・グループを作り予備的検討をしてまいりましたが、文部科学省の決定をうけて5月2日には学内の公開説明会を開催するとともに、幾つかの法人化準備検討ワーキング・グループを部局長会議の下にもうけて本格的な検討を開始いたしました。

 国立大学の法人化の主要な点は、個々の大学が大幅な自主的決定権を持つとともに、財政面を含んだ大学の運営に全面的な責任を負うこと、国は大学に6年単位の中期目標と中期計画を出させ、それに見合った交付金を与え自主的に活動させるかわりに、その結果についての評価を行うという形で大学に競争原理を導入すること、などであります。また「知」の時代といわれる21世紀にあって、国立大学が社会から期待される使命や機能の実現を目指し、その責務を全うしていくためには、「諸規制の大幅な緩和と大学の裁量の拡大」という法人化のメリットを最大限に活用して、大学および教職員の持つ能力を存分に発揮させることが重要であり、こうした観点に立ち、教職員の身分については「非公務員型」とすることが適当であるとされております。

 教官においては教育の質を高め、またより良い研究成果を出すことが求められることになります。職員においては、種々の職種を設定することができ、それぞれの職種においてその専門性を高め、効率のよい仕事が出来る職場のシステムを構築することが必要となります。そしていろんな形で大学の収入を増加させる努力が求められることになるでしょう。各大学はこういった種々の面においてお互いに競争の場にさらされ、中期計画期間における計画達成度の評価によって優劣がつけられ、国からの交付金が増減されることになりますので、京都大学といえども油断はできません。大学の活動全てについて社会に対する説明責任を負い、透明性の高い運営を行い、またいろんな面で社会に対して貢献してゆくことが要請されることになります。

 

法人化における教職員の心がまえ

 法人化はこれから約2年先の平成16年4月が想定されていますが、それまでに行うべき準備作業はぼう大であります。そのある部分は文部科学省が行いますが、国立大学協会としても、法人化への移行時、また移行後における各大学のスムースな運営のために出来る支援はいろいろと行うべく検討を始めました。また当然のことながら個々の大学において行うべき準備もぼう大であります。教職員がお互いに協力してこの準備を行い、京都大学としてできるだけ優れた法人システムを設計することが必要であります。皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。

 このような状況の中で、特に職員の皆さんは公務員でなくなり、法人化されたらどんな環境でどのような仕事をすることになるのだろうか、大学の財政が健全に発展してゆくのだろうかなど、数々の疑問が湧き起ってきて不安になるかもしれません。ただ非公務員型の身分になっても公務員の場合の数々の特典が継承されるようになっているほかに、「非公務員型」による弾力的な人事制度が実現でき、それぞれの職務に対する積極的な努力と実績が十分に評価され、報いられることになるはずであります。こういったことについては既に皆さんに配布しています“新しい「国立大学法人」像について”という文部科学省調査検討会議の報告書(平成14年3月26日)に書かれておりますので、ぜひ読んでいただきたく存じます。

 今日最も大切なことは、新しい方向への改革に積極的に取り組んでゆくという、各人の心の持ち方であり、これがあれば種々の困難を克服し働きがいのある職場を作ってゆくことができますし、またそうならなければ改革の意味がありません。すなわち、この法人化という国立大学の大きな変化が成功するかどうかは、ひとえに我々教職員の前向きの取り組みの如何にあるのであります。これからは大学自身の新しい発想とその実現へ向けての努力によって、大学は良くもなりまた悪くもなってゆきます。全部局がお互いに助け合い協力し合うことによって京都大学はすばらしい大学になってゆくのであります。その第一歩がこれからの2年間の準備作業ということになるでしょう。

 

目標を明確に持つこと

 これからの競争社会に打ち勝ってゆくためには、目標を明確に持つことが大切であります。京都大学はこれまでの数年間にいろんな面で大きく変化して来ました。今後とも学問と教育の本質を忘れずに、なおかつ時代の流れを先取りしながら進んでゆくべきものと考えます。

 具体的な目標の一つとしては、これから益々国際化されてゆく社会において、京都大学は世界の有力大学の一つとして活躍してゆくべきことでしょう。そのためには、たとえばハーバード大学やスタンフォード大学、ケンブリッジ大学などと対等となるよう、教育・研究・大学運営などの全てにおいて具体的な目標を定めて、努力してゆく必要があります。

 世界の一流大学となるための一つの条件は、特に人材における実力主義と多様性であります。国の内外にかかわらず優れた能力の人を積極的に採用すること、優秀な外国人学生をもっと入学させ、多様な学生諸君の期待を満足させるキャンパス・ライフを提供することが大切であります。事務系職員においても重要な活躍の場に女性がいるというようにする努力をし、種々の職種において専門家を養成し、あらゆる部署において企画力を強化し、仕事のシステムに工夫をすることによって、効率のよい強力な大学運営を一致協力して行ってゆかねばなりません。

 

おわりに

 ここで私どもはあらためて、昨年12月に制定した新しい時代へ向けての京都大学の基本理念を思い出す必要があるでしょう。研究においては高い倫理性を保ちながら多様な発展と学の統合を目ざし、教育においては豊かな教養のもとに創造的精神を涵養し、社会に開かれた活動を通じて地球社会の調和ある共存に貢献すること、そのためにも全学的な調和と協力への努力を一層行うと誓っているのであります。

 法人化されれば、自主性、自律性、自己責任をさらに明確にしながら、世界の主要大学に互して発展し、日本、さらに世界に対して貢献してゆかねばならず、それはこの京都大学の基本理念を実践してゆくことにほかなりません。創立記念日である今日、我々は心を新たにして将来に向けて出発しようではありませんか。